ロックで即興演奏はあるのか
インプロビゼーション、いわゆる「即興演奏」はジャズの最大の特徴。おきまりのテーマ部から、インプロビゼーション部へなだれ込み、延々と繰り広げられる即興演奏は「ジャズの花」である。
では、ロックの世界で、インプロビゼーションはあるのか。これが殆ど無い。もともと、ロックは大衆音楽。誰が聴いても判り易くてはならない。そんな条件が付いている中で、毎回毎回、音の展開、節回し、アプローチが異なる即興演奏は判り難くて「いけない」。
ロックは、皆が判り易く、皆が一様に乗れるものでなければならないので、即興とは反対の、お決まりのキャッチャーで定型的な展開やアプローチが必要となる。毎回毎回、お約束の「お決まりの展開」が来るからこそ、乗れるし、毎回毎回、一様に楽しめる。
しかし、1960年代後半から1970年代前半の英国では、そのロックとジャズの境界線が曖昧で、特に、プログレッシブ・ロックと呼ばれるジャンルに属するバンドで、即興演奏を得意とするバンドが幾つかいた。メジャーなところでは、キング・クリムゾン、ソフトマシーンなどがそうだ。
そして、キング・クリムゾンなどは、2009年、ドラムのビル・ブルーフォードが現役引退を表明するまで、長きに渡って、ロック・バンドらしからぬ、即興演奏を得意とした、独特な個性を持つプログレッシブ・ロック・バンドとして君臨した。
21世紀なって振り返ると、キング・クリムゾンほど、即興演奏を売りにしたロック・バンドは無い。1970年代以降、21世紀なるまで生き残ったロック・バンドの中では「唯一」と言って良い。
そんなキング・クリムゾンの即興演奏が楽しめるアルバム・シリーズがある。1997年から1999年に渡って展開された「ProjeKcts(プロジェクツ)」である。Projectという単語の「e」と「c」との間に大文字のKが入っているところが「ミソ」。「Kc」とはキング・クリムゾンのイニシャル。なかなかお洒落なバンド名である。
「ProjeKcts」とは、キング・クリムゾンのメンバーが行った、実験プロジェクトの名称。1997年から1999年に渡って展開された「ProjeKcts」は、OneからFourまで、4つのユニットが存在する。
1996年、キング・クリムゾンの内紛によって、ダブル・トリオ期のメンバー中心に編成された、実験の要素の強いテンポラリー・バンドであった。「ProjeKcts」の演奏は、即興演奏をメインとする。よって、アルバムの殆どがライブ盤である。
例えば『ProjeKct One』(写真左)を聴いてみると、その即興演奏の内容の濃さが良く判る。曲名は例えば「4 i 1」とか「2 ii 3」とか、おちょくっているとしか思えない、記号のようなものばかりなので、意味を成さない。このアルバムの内容の全てが、キング・クリムゾンの主要メンバーによる、エレクトリックな即興演奏である。
特に、エレギのロバート・フィリップ翁(写真右)の演奏が凄い。暴力的であり、メタリックであり、アブストラクトであり、フリーであり、モーダルである。
このエレギの即興演奏は「マイルスもビックリ」だろう。そう、この『ProjeKct One』のエレクトリックな即興演奏は、そこはかとなく「エレクトリック・マイルス」の雰囲気が漂っている。
変則拍子を基本に、ポリリズムを叩きまくるビル・ブルーフォードのドラミングも、かなりエレクトリック・ジャズ的だ。ジャジーな雰囲気が殆ど皆無なのと、リズム&ビートに黒っぽさが無い分、ジャズ的な雰囲気は希薄だが、演奏内容は、そのテクニックと共に、先進的なエレクトリック・ジャズに匹敵する。
この『ProjeKct One』は、エレクトリック・ジャズ者もビックリ。ほとんど、エレクトリック・マイルス、ほとんど、エレクトリック・ジャズである。まあ、一部の演奏は「これって、Larks' Tongues in Aspic Part.2 のままやん」と思わず突っ込みたくなるものもあるが、これはこれで、キング・クリムゾン者としては、胸にグッとくる(笑)。
21世紀に入って、ロックのメジャーどころでは、ほとんど姿を見なくなった「即興演奏を得意とするバンド」。しかも、その演奏内容、テクニック共に、先進的なエレクトリック・ジャズに匹敵するバンドは、ほとんど見当たらなくなった。しかし、どうも、このキング・クリムゾン、今度はトリプル・ドラムをベースに復活するらしい。楽しみである。
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コメント
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松和のマスター様
こんばんは
このプロジェクツ・シリーズは過去にトライして
挫折した経験があります。
そうなんですよね。凄いはずなんですよね。
もう一度聴いてみます。
投稿: GAOHEWGII | 2014年1月 8日 (水曜日) 21時08分
こんばんは、GAOHEWGIIさん。松和のマスターです。
コメントありがとうございます。
このProjeKctシリーズ、エレクトリック・ジャズの耳で
聴くと、意外と聴き通せます。逆にロックの耳で聴くと、
ちょっと辛いかな。この辺が、このProjeKctシリーズの
音世界の面白いところだと思います。
是非、再チャレンジしてみて下さい。
投稿: 松和のマスター | 2014年1月 8日 (水曜日) 21時32分