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2013年12月15日 (日曜日)

ポールの「あるべきデビュー」盤

ビートルズの呪縛から逃れるために、もう一つは、天才ジョン・レノンという呪縛から逃れるため。ポールは過剰なまでに、この2つの呪縛を強く意識し過ぎて、自らの才能を封じ込めてしまった1970年代前半のポール。『Wild Life』までの音楽的成果は「ちょっとこれはなあ」という課題だらけのものだった。

しかし、ポールはこのままで終わらなかった。なんだか、開き直りの精神が芽生えたのか、ゴツゴツしたロックの精神を捨て、ポップで楽しいあっけらかんとした、メロディ・メーカーとしての道を歩み始めてから、ポールの世界は一変した。

前のアルバムの『Wild Life』で完全にこけたポールは、さすが、マズイと思ったのか、かなり、気合いを入れてアルバムを作り始めた。とにかく、『Wild Life』が、受けなかったので、なりふりかまわず、Paul McCartney & Wingsの個性を追求し始めた。

その最初の成果が「Live and Let Die(007死ぬのは奴らだ)」のテーマだろうし、シングル・ヒットした「Hi,Hi,Hi」だったろう。この2曲は、今までの『ビートルズの幻影とジョンの幻影を過剰なまでに感じている』ポールではなく、純粋に『希有なメロディー・メーカー』のポールのみが、そこにいる感じなのだ。とにかく、この2曲は今までの雑念が見え隠れしないのだ。
 

Red_rose_speedway

 
そして、満を持して世に出したアルバムが、この『Red Rose Speedway』(写真左)。しょっぱなから、なかなか練られた曲調で幕を開ける。2曲目の「My Love」は、甘すぎるバラードであまり感心しないが、3曲目以降は、今までのポールのソロの世界と全く異なった、「メロディー・メーカーのポール」の面目躍如とも言える佳曲が次々と続く。

特に、最後のメドレーは、それぞれが独立していても遜色ない佳曲が畳みかけるように耳に飛び込んでくる。このメドレーこそが、ビートルズの幻影とジョンの幻影を振り切って、本来のポールの個性が輝き始めた証ではないだろうか。確かに、このアルバムでポールは、ポール独自の個性と特性を正確に掴み、表現できるようになったといえる。

ただ、このアルバム、先に挙げた「Live and Let Die(007死ぬのは奴らだ)」や「Hi,Hi,Hi」という、出来の良かったシングル・ヒット曲は含まれておらず、少々地味なバラードタイプの曲が多く選曲されている為、ややメリハリに欠け、名盤と呼ばれるだけの風格に欠ける。これが実に惜しい。

しかしながら、次作を期待できるだけの「Something(何か)」が十分すぎるほど輝いている。そういう意味で、ポールはこのアルバムで、ようやくポールの個性に相応しい「あるべきデビュー」を飾ったと言える。 

 
 

大震災から2年9ヶ月。決して忘れない。まだ2年9ヶ月。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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