フェンダー・ローズを愛でる・8
僕はジャズ・ミュージシャンに対して、ほとんど好き嫌いが無いのだが、たった一枚のアルバム以外はほとんど聴かない、というジャズメンが何人かいる。
その何人かの中に「菊地雅章」がいる。雑誌やラジオのインタビューで、同業者ジャズメンを思いっきりこき下ろしたり、批判する様を読んだり聞いたりするにつけ、どうしても彼の音楽を受け付け無くなってしまった。
今でも、彼の数あるアルバムの中で、このアルバム以外は全く聴かない。そのアルバムとは、菊地雅章『SUSTO(ススト)』(写真左)。1980年、ニューヨークでの録音。
音的には「エレクトリック・マイルス」のコピー。『On The Corner』の頃の「エレクトリック・マイルス」をそのまま踏襲し、判り易く、聴き易く、平易に解釈し焼き直したフュージョン・ジャズ。リズム&ビートは、「エレクトリック・マイルス」のような粘りのあるファンクネスとは全く異なる、ライトで粘りの無い乾いたファンクネス。
どう聴いたって「エレクトリック・マイルス」のコピーで、ファンクネスもビートも明らかに足らない、ちょっと中途半端な内容なんだが、僕はこのアルバムが好きだ。なぜなら、意外とフェンダー・ローズが良い音を出しているのだ。菊地雅章はフェンダー・ローズの使い手なのだ。
1曲目の「Circle/Line」では、フェンダー・ローズはバッキングにチョロっと出てくる程度。この曲、何だか、マイルスの「アガパン」を模しているようなんだが、ジャズ的要素に欠ける。明るすぎるというか、スッキリしているというか、ジャズ独特のブルージーでほんのり暗い、ドロッとしたところが無い。リズム&ビートも粘りが無いし、どうしても「エレクトリック・マイルス」の忠実なコピーって感じで、どうしても入り込めない。
しかし、2曲目の「City Snow」から、フェンダー・ローズが活躍するにつけ、やっと「エレクトリック・マイルス」を模してはいるが、そこはかとなく菊地の個性が漂い始める。要所要所でフェンダー・ローズの音色が鳴り響き、ライトで粘りの無い乾いたファンクネスが良い方向に作用する。
そして、3曲目の「Gumbo」。この曲はもう、イントロのフェンダー・ローズの音が全てだ。これぞフェンダー・ローズ、という音の揺らぎと響き。はは〜っと、ひれ伏してしまいそうなほど、明らかにフェンダー・ローズの音が格好良い。リズム&ビートは「レゲエ」。ツイン・ドラムス、ツイン・ギターでレゲエのビートを紡ぎ、シンセサイザーによる印象的なテーマ演奏が実に心地良い。
僕はこの「Gumbo」が、泣きそうになるくらい好きだ。1981年にこのアルバムをLPで入手して以来、この「Gumbo」は何度聴いたか知れない。とにかく、この「Gumbo」のフェンダー・ローズの音が絶品なのだ。シンセのインプロビゼーションも良いし、エレピのフュージョン・ジャズって「これでしょう」というくらいに、僕はこの「Gumbo」が大好きだ。
ラストの「New Native」は、これまた「エレクトリック・マイルス」の忠実なコピーって感じに戻って、あれれ、って感じ。ヒノテルのトランペットもマイルスそっくり。うむむ、これはなあ(笑)。
このアルバム、フェンダー・ローズが活躍する、2曲目「City Snow」と3曲目「Gumbo」が聴きもの。特に「Gumbo」は良い。この冬の季節に聴くにピッタリのフェンダー・ローズの響き。ダイナミックで幽玄な展開も含め、この1曲だけでも、このアルバム『SUSTO(ススト)』は「買い」だ。
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