「只者ではない」和ジャズです
日本のジャズは奥が深い。あまり雑誌などに採り上げられなかったり、宣伝が行き届かなかったり、もともと発売枚数が少なかったりで、我々、ジャズ者にその存在と内容が知られる前に廃盤になっていったアルバムが、きっと多かったのだろう。
この5年の間に、日本人による日本のジャズのアルバムが多く復刻されてきた。セールス的には「和ジャズ」なるジャンルを与えられて、意外とその復刻アルバムについてのアピールがなされている。
リイシューされるアルバムを見る度に「こんなアルバムあったんや」状態で、知らないアルバムばかりが、どしどし出てくる。iTunesなどで試聴してみても、いずれもなかなかに内容のある演奏ばかりで、どうして、こんなアルバムが、ジャズ者の我々に対して、アピールされること無く廃盤になっていたのか、理解に苦しむものばかり。
このアルバムだってそうだ。佐藤允彦『Transformation '69/'71』(写真左)。パーソネルは、佐藤允彦 (p), 荒川康男 (b), 富樫雅彦 (ds)。このアルバムの存在を僕は全く知らなかった。収録された曲は以下の4曲。ちなみに、1曲目と2曲目が1969年3月の録音。3曲目と4曲目が1971年3月の録音。
1.Tigris
2.On A Clear Day (You Can See For Ever)
3.Transformation Part 1
4.Transformation Part 2
パーソネルを見れば、これは「只者ではない」ことに気が付く。こんなアルバムがあったんや、と万感の思いがこみ上げてくる。聴いて見ると、確かに「只者では無いアルバム」である。
1969年録音の1曲目から2曲目は、当時の最先端をいく「モーダルなピアノ・トリオな演奏」。1曲目の「チグリス」は秀逸な演奏で、リズム・パターンが規則的にグネングネンに変化する(おそらくダブルタイムで変化していると思われる)、むっちゃ格好良い曲で、こんなリズム・パターンが変化するモーダルなピアノ・トリオは、あまり耳にしたことが無い。
2曲目は、同名タイトルのブロードウェイ・ミュージカルの主題歌。いわゆる「スタンダード曲」なんですが、このトリオの演奏は、恐ろしくシャープで、アップテンポな展開。「寄らば切るぞ」という感じの清々しいテンション。ドライブ感は半端じゃなく、3者絡み合ったインプロビゼーションは、実にスリリング。
1971年録音の3曲目と4曲目は、打って変わって、現代音楽の響きを宿した、フリー志向のテンション溢れる演奏。間と響きを活かした「墨絵」の様なフリーキーな演奏は、実に幽玄で力感溢れる演奏で、長時間のインプロビゼーションにも破綻することが無い、トリオを構成するそれぞれのミュージシャンの力量の高さが推し量れる。
一度聴くと、もう一度聴きたくなるアルバムで、聴けば聴くほど、こんなアルバムが、1970年前後の「和ジャズ」にあったんや、と感動してしまう。相当に高いレベルの演奏で、世界のジャズのレベルと比肩する、素晴らしい内容の純ジャズである。
「浮世絵」をあしらったアルバム・ジャケットも「和風」でありながら、なかなかデザイン的に優れたもの。いやはや、こんなアルバムが「和ジャズ」にゴロゴロしているんですねえ。
大震災から2年8ヶ月。決して忘れない。まだ2年8ヶ月。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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