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2013年11月 5日 (火曜日)

アキコ・グレースの本当の個性

ジャズにしろ、ロックにしろ、Jポップにしろ、新人でデビューしてリーダーアルバムをリリースする時、ミュージシャンとしてやりたいこととレコード会社の意向が全く合わない時がある。

レコード会社はとにかく「売りたい」。売上を上げ、利益を上げたい。そうすると、その時の世の中の流行やトレンドを見て、それに合わそうとする。とにかく「売りたい」のだ。リーダーのミュージシャンの意向など無視することだってある。まあ、レコーディングだってコストがかかる。コスト投資をするのだから、それに見合った売上を、というのが普通のレコード会社の論理。

しかし、音楽ってものは、そんな通常の企業活動の定石の様には事が運ばない。やはり、優れたミュージシャンであれば、そのミュージシャンのやりたいようにやらせた方が良いアルバムが出来る。でも、良いアルバムが「売れる」とは限らない。しかし、レコード会社であれば、先ずは「良いアルバム」を制作し、リリースするのが先決だろう。音楽とは芸術なのだ。普通の商品の類では無い。

このアキコ・グレース(Akiko Grace)のデビューからのリーダー作の3作を順番に聴けば、そのミュージシャンとレコード会社の「葛藤」が何となく理解出来る。そして、アキコ・グレースがやりたかったことは、3作目の『New York Style』(写真左)を聴けば良く判る。

『From New York』(2013年8月7日のブログ参照・左をクリック)、『Manhattan Story』(2013年9月26日のブログ参照・左をクリック)と、すでにリリースされている2枚のアルバムと併せて、ニューヨーク録音3部作の完結編である。

2003年7月のリリースになる。そうか、もう既に10年も前になるのか。そして、ちなみにパーソネルは、Akiko Grace (p), Larry Grenadier (b), Bill Stewart (ds)。ベースとドラムとの相性については、このベースのラリーとドラムのビリーの二人との組合せにて、3作目にして、やっとベストなピアノ・トリオと相成った。
 

Newyork_style

 
冒頭の「Jump」、ヴァン・ヘイレンのあの超有名曲。乾いたファンクネス漂うアーシーなピアノ。最早、世の中の流行やトレンドに迎合した「ガーン、ゴーン」と弾きまくるピアノでは無い。右手はクリスタルに透明感を振り撒きながら、乾いたファンクネスを漂わせる。左手は意外と多弁にアーシーなリズム&ビートを供給する。実に格好良いアレンジ&アドリブ。

キース・ジャレットとデビット・ベノワとブラッド・メルドーを足して、3で割ったような音。でも、右手の透明感は明らかに個性的だし、左手のちょっと多弁なアーシーさは、これまたグレースとして個性的。ちょっと聴けば「どっかで聴いた様な音」なんだが、じっくり聴くと「明らかに個性的な音」。

そして、この右手の透明感は、自作曲でより個性的になる。8曲目の「Pray Song 〜 for Grand Zero」は、NY世界貿易センタービル跡地、グラウンド・ゼロへ捧げられた曲。右手の透明感と音の合間の静寂が、グレースのピアノの一音一音が「祈り」の世界を紡ぎ出していく。この右手の透明感と音の合間の静寂は、グレースの個性として成立している。

「Greensleeves」「Smile」「Caravan」のスタンダード曲でも、この右手の透明感が大活躍する。決して、過度にジャジーにならず、オーバー・ファンクにもならない。ライトな感覚でジャジーさを供給し、ファンクネスはあくまでも乾いている。米国にも欧州にも無い右手の透明感。良い感じだ。

アキコ・グレースは、この第三作目の『New York Style』で、やっとミュージシャンとしてやりたいことが出来たのでは無いか。一部、レコード会社の意向を汲んでいるところはあるにせよ、この第三作目は、アキコ・グレースの個性を十分に感じ取ることが出来る。

その時の世の中の流行やトレンドを追わず、レコード会社の売らんが為の意向に迎合せず、ビジュアル系から訣別し、ミュージシャンとしてやりたいことを中心にリーダー作を制作する。こんな当たり前の事が簡単に出来ない音楽業界って悩ましいもんやなあ、って思う。でも、これって、1960年代からずっとそうなんだよな。まあ、音楽業界の永遠の課題ですね。

 
 

大震災から2年7ヶ月。決して忘れない。まだ2年7ヶ月。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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