ピアノ・トリオの代表的名盤・38
僕がジャズを聴き始めた1970年代後半。日本人のジャズはまだまだ発展途上で、なかなか米国ジャズ・コンプレックスを拭えなかった。あろうことか、ECMレーベルを中心とする現代的な欧州ジャズが台頭して、米国ジャズ・コンプレックスの上に、欧州ジャズ・コンプレックスが重なって、時々、なんだか憂鬱な気分になったことを思い出す。
でも、1970年代の日本人のジャズも捨てたもんや無やなかった、と最近思う。1970年代の日本人ジャズの優秀盤が、ようやくCDでリイシューされるようになり、当時、なかなか聴くことの出来なかったアルバムを聴くことが可能になった。聴き進めるにつけ、日本人のジャズもなかなかいける。確かに発展途上のまだまだなジャズもあるが、既に日本人ジャズならではの個性を確立して、かなりのレベルの演奏を残しているものも多々あることが良く判った。
例えば、今日、久し振りに聴き直して、その優れた内容を再認識した、本田竹曠『The Trio』(写真左)。1970年の録音。ちなみにパーソネルは、本田竹曠 (p), 鈴木良雄 (b), 渡辺文男(ds)。本田竹曠の初のトリオ作品。今の耳で振り返れば、ピアノの本田竹曠のみならず、ベースの鈴木良雄、ドラムの渡辺文男と錚々たるメンバーである。
冒頭の「This His Guys In Love With You」が素晴らしい。バカラック・チューンなのだが、これがまあ、硬質で切れ味の良い、そこはかとなく「乾いたファンクネス」を漂わせ、歌心満点のインプロビゼーションで聴かせてくれる。ビ・バップの様に、音符を並べ立てて雄弁に弾きまくることは全く無く、その反対に、間を活かした、音数を選んだファンキーな演奏は、米国ジャズや欧州ジャズに無いものだ。
2曲目の「破壊と叙情」は、ガンゴンと叩きまくるようなタッチ、そうマッコイ・タイナーの様な、エネルギッシュでモーダルな演奏。しかし、本田は決して「シーツ・オブ・サウンド」に走らない。このマッコイ・タイナー風のタッチとモーダルな展開を踏襲しつつも、この演奏でも、間を活かした、音数を選んだ「乾いたファンクネス」を湛えたピアノは、実に個性的だ。
ラストの「Emergency」は、ジャズ・ロックな演奏を、ピアノ・トリオに置き換えて、硬質で切れ味の良い、歯切れの良いタッチで、アーシーに弾きまくる。これ、むっちゃ格好良いピアノ・トリオな演奏で、日本人ジャズならではの、硬軟自在でモーダルな展開とアーシーで「乾いたファンクネス」漂うジャズ・ロックな演奏は、オリジナリティ溢れる名演だと思う。
そして、もうひとつ特筆すべきは、リズム・セクションを担う、ベースの鈴木良雄、ドラムの渡辺文男の演奏がとても素晴らしいこと。このベースとドラムの演奏レベルは、米国ジャズ、欧州ジャズのレベルに十分に比肩するものだ。このベースとドラムがあってこそ、本田のピアノが才能が、よりいっそう映えるのだ。
惜しくも、2006年に夭折した本田竹曠。しかし、この初のトリオ盤は、素晴らしい内容だ。本田の情熱、才能、オリジナリティが溢れている。今回謹んで、我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「ピアノ・トリオの代表的名盤」の一枚に挙げさせていただく。本当に、このピアノ・トリオ盤を聴いて思いますね、「日本人のジャズも捨てたもんや無い」と。
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