3度目の失踪からの復帰である
秋も深まり、ぶ厚いテナーの音も暑苦しいと思わなくなった。ということで、ソニー・ロリンズの聴き直しを再開した。
ちなみに、偉大なるテナー・タイタン、ソニー・ロリンズは、既にそのキャリアは50年を超えている訳ですが、その長いキャリアの中で、3回ほど「雲隠れ」しています。所謂「失踪」ですな。
1回目の失踪は1955年辺り。 麻薬禍の根絶が目的。この時期、マイルス・デイヴィスは、初の自前のレギュラー・コンボを持つべく、テナーをロリンズとしていたのですが、失踪していては話にならない。代わりに、マイルスのレギュラー・コンボに抜擢されたテナーは、ジョン・コルトレーン。巡り合わせというか、運命の「あや」ですね。
2回目の失踪は1959年。原因はオーネット・コールマンの出現。 コールマンのフリー・ジャズに衝撃を受け、 自分の音楽を再考する必要が生じたこと、そして、人気が上がったが故の私生活の乱れを立て直すこと、演奏技術にさらなる磨きをかけることが、主な理由だったみたいです。
3回目の失踪は1967年辺り。原因はコルトレーンの逝去。最大のライバルであり、共にジャズ・テナーを極めた同士でもあるコルトレーンの死は、かなりのショックだった様です。しかも、1967年辺りは、ビートルズ旋風を切っ掛けとしたロック・ミュージックの台頭によるジャズの人気の低下、加えて、フリー・ジャズの嵐が吹き荒れ、ジャズ自体が大衆音楽の座から滑り落ち始めた時代です。ジャズメンとして、その先行きを懸念したこともあったのでは、と推察しています。
さて、Sonny Rollins『Next Album』(写真左)は、そんな3回目の失踪から復帰した、復帰第一作です。1972年7月の録音。ちなみにパーソネルは、Sonny Rollins (ts), George Cables (p, el-p), Bob Cranshaw (b, el-b), Jack DeJohnette (ds), Arthur Jenkins (perc)。エレピ、エレベも交えて、1972年という時代を感じます。
しかし、3回目の失踪から復帰したロリンズは、時代や環境に決して迎合しない、自分の吹きたいようにテナーを吹き、自分のやりたいスタイルをやる、そんな「達観した」プレイを展開します。この『Next Album』がそうです。
冒頭の「Playin' in the Yard」の朗々とした、余裕をかました、鼻歌を歌うような、それでいて豪快はテナーの調べは、実に魅力的です。大らかで豪快で歌心満点で、ロリンズのベスト・プレイのひとつに挙げたい位の素晴らしいブロウが展開されます。
2曲目では、ロリンズは、ソプラノ・サックスに挑戦しています。が、下手ではありませんが、上手くもありません(笑)。フレーズ的には、アフリカン・ルーツ・ミュージックの雰囲気が芳しい、ワールド・ミュージックの響きを宿したブロウなのですが、吹き進むにつれて「だれて」きます。ちょっとルーズなロリンズのソプラノ。それでも、その意欲的なチャレンジ精神には感心します。
3曲目は、ロリンズお得意のカリプソ・ナンバー「The Everywhere Calypso」。やはり、ロリンズって、カリプソ・ナンバーを吹かせると素晴らしいですね。大らかで豪快で歌心満点なロリンズが、めっちゃ格好良いです。
ロリンズは「時代や環境に決して迎合しない」と書きましたが、このアルバムでは、エレピ、エレベも導入したグループ・サウンズを披露するんですが、時は1972年、当時はやりのクロスオーバー・ジャズへ走るのか、と思いきや、どうして、しっかりと純ジャズしている。アコピをエレピに、アコベをエレベに単純に置き換えて意味があるのか、と思いきや、どうして、意外と味のある純ジャズに仕上がっているから不思議。
アルバム全体の作りが、ちょっとラフというか荒いので、実に惜しい。もう少し、細部に渡って気を遣って、丁寧にアルバムを仕上げていたら、このアルバムは大名盤になっていた可能性がある。惜しい、実に惜しい。このアルバム全体の作りの荒さが故、このアルバムは、なかなかロリンズの代表作に、その名前が挙がらない。残念。
でも、このアルバムのロリンズ、実に魅力的です。時代や環境に決して迎合しない、自分の吹きたいようにテナーを吹き、自分のやりたいスタイルをやる、そんな「達観した」プレイが実に格好良い。
大震災から2年7ヶ月。決して忘れない。まだ2年7ヶ月。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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