ハバードの変わり種アルバム 『Sky Dive』
昨日に続いて、今日も「ハバード」ネタ。とにかく、ハイテクニックで器用なフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)。1970年代のクロスオーバー・ジャズのブームにも何の問題も無く、しっかりと「乗っかった」。
所属したレーベルが、クロスオーバー〜フュージョンの仕掛人の一人、クリード・テイラー率いるCTIレーベル。電気楽器、ストリングス、そして、8ビートを駆使して、大衆性溢れる、聴き心地の良いジャズを生み出していった。
そんなジャズのトレンドの流れの中で、ハバードはしっかりと泳ぎ切っていく。当時、最先端の一つだったフリー・ジャズの代表作である、コルトレーンの『Ascension』、オーネット・コールマン『Free Jazz』、エリック・ドルフィー『Out to Lunch』等にも参加した実績のあるハバードからして、忸怩たるものはあったのだろうが、そこは、ハイテクニックで器用なハバードである。全く自然に全く違和感無く、クロスオーバー・サウンドにキッチリと乗っかっている。
実は、1970年代、クロスオーバー〜フュージョン・ジャズにおけるハバードのアルバムに駄作、凡作が無い。どのアルバムも、ハバードは好調だし、アルバムの出来も水準以上のものばかり。とりわけ、ハバードのトランペットの音色が素晴らしい。
例えば、このFreddie Hubbard『Sky Dive』(写真左)もそんな佳作盤の一枚。1972年10月の録音になる。ちなみにパーソネルは、主だったところで挙げると、Freddie Hubbard (tp), Hubert Laws (fl), Keith Jarrett (p,el-p), George Benson (g), Ron Carter (b), Billy Cobham (ds), Ray Barretto, Airto Moreira (perc), Don Sebesky (arr,cond)。
いやいや、今振り返ってみると、凄い面子ですね。皆、今や大ベテラン、ジャズ界の重鎮ミュージシャンばかり。そんな中、キース・ジャレットがエレクトリック・ピアノで参加しているところが珍しい。マイルスの下を辞して以来、ほとんどエレピは弾かないキースである。実に珍しい。
キースがエレピで参加しているクロスオーバー盤である。ミーハーな僕としては、即入手しても不思議では無いのだが、昨年まで、この盤を手にすることは無かった。なんでやろ、と思って収録曲を見渡してみると、なるほど、3曲目に「ゴッド・ファーザーのテーマ」が鎮座している。あの古典的名画「ゴッド・ファーザー」のニーノ・ロータ作曲のテーマ曲をクロスオーバー・ジャズとしてアレンジしたもの。
「こんな俗っぽい曲なんて聴けるかい」と若気の至りで思ったんでしょうね。1990年代まで、この盤の存在は無視していました。気になりだしたのは、21世紀に入ってから。さすが、人間、40歳を過ぎると、物に対する許容量が増えるらしく、この3曲目の「ゴッド・ファーザーのテーマ」の存在についての「こだわり」も薄れた。しかし、逆に、今度は、この『Sky Dive』という盤自体が廃盤状態で入手困難となっていて困った困った。やっと昨年、中古盤にて、リーズナブルなお値段で入手しました。
さて、この盤でのエレピのキースについては、あまり特筆すべきプレイは見当たらない。確かにキースの手癖は感じるんだが、完全にサイドメンに徹していて、とにかくあまり目立たない。よって、エレピのキースを目当てにこの盤を入手する意義はあまり無いなあ、と僕は感じました。
しかし、この盤でのクロスオーバー・ジャズとしての演奏レベルは高い。まず、主役のハバードのペットが絶好調です。アレンジこそ、少し時代を感じさせるものがありますが、気になるほどではありません。そんなアレンジのちょっとした古さを吹き飛ばしてしまうほどのハバードの吹きまくり。ハイテクニックと相まって、目眩く展開に耳を奪われます。
ベースのロンも好調。フルートのロウズも好調。ギターのベンソンも弾きまくり絶好調。ドラムのコブハムも良い意味で叩きまくり。アレンジのちょっとした古さが良い方向に作用して、このアルバムは、1970年代前半、クロスオーバー・ジャズの佳作の一枚に挙げられる内容となっています。
曰く付きの「ゴッド・ファーザーのテーマ」については、まあ、甘ったるいイージーリスニング・ジャズ的なアレンジが施されていて、ちょっと腰を引き気味になりますが、ハバードのバラード・プレイが絶品で、まずまず楽しめます。歳はとってみるものですね。音に対する許容量が増えて、経験が深まります(笑)。
キースがエレピで参加している、ハバードの変わり種アルバム『Sky Dive』。1970年代前半、クロスオーバー・ジャズの佳作として、まずはクロスオーバー・ジャズ者の方々にはお勧め。中古盤でも入手し難い盤ではありますが、リーズナブルな価格で出ている中古盤を粘り強く探してみて下さい。たまには、こうやって中古盤を探し歩くのも、アルバム・コレクターの楽しみのひとつではあります。
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