『Africa/Brass』の正統な後継
ジョン・コルトレーンのアルバムに『Africa/Brass』というアルバムがある。タイトル曲「Africa」では、冒頭、野性的な咆吼や呪術的な響きを管楽器中心に表現していて、ちょっと「引く」。当時の米国黒人が意識していた遠い故郷「アフリカ」を安易にイメージさせるに十分な、ちょっと「ベタ」なアレンジがユニーク(2009年9月28日のブログ参照・左をクリック)。
このコルトレーンのアフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開については、アレンジを煮詰めていけば十分に成立するレベルの高いものであった。特に、後の「ワールド・ミュージック」のエッセンスを先取りしたような内容は、今から振り返れば、さすがはコルトレーンと言うべきものであった。
しかし、この『Africa/Brass』のセッションでは、コルトレーンのリーダー・アルバムでありながら、エリック・ドルフィー指揮のオーケストラを愛でることになるという、「軒下を貸して母屋を乗っ取られた」ような状態になってしまったので、コルトレーンは、アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開を追求することは無く、フリー・ジャズにひた走ってしまった。
コルトレーンの伝説のカルテットのピアニストに、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)がいる。実は、このタイナーが、アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開を、コルトレーンの代わりに追求することとなる。1968年のセッションから暫く、このアフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開を追求することになるのだ。
その一連のアルバムの中で、一番、その雰囲気濃厚なアルバムが、McCoy Tyner『Asante』(写真左)。1970年9月の録音になる。ちなみにパーソネルは以下のとおり。
McCoy Tyner (p, wooden-fl), Andrew White (as, oboe), Ted Dunbar (g), Buster Williams (b), Billy Hart (ds, African-perc), Mtume (cong, perc), "Songai" Sandra Smith (vo), Herbie Lewis (b), Freddie Waits (ds, timpani, chimes), Hubert Laws (fl), Gary Bartz (as, ss)。
ウッド・フルートやオーボエを交え、アフリカン・パーカッションを活用しつつ、アフリカン・ネイティブなボーカルを織り交ぜ、コルトレーンが追求することが無かった、アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的な演奏が展開されている。
特に、冒頭のタイトル曲「Asante」がその雰囲気満載。アフリカン・アメリカンの心の音世界、アフリカン・ネイティブな音世界を上手く取り入れ、非常に上手くアレンジしている。タイナーのパーカッシブなピアノも、アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開の中では実に効果的に響き、ヒューバート・ロウズのフルートも実に官能的だ。
アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開のタイナーのアルバムとしては、1970年代より『Sahara』を推されることが多いが、どうしてどうして、僕は、この1968年から1970年までの、ブルーノートのセッションの方が優れていると思う。
残念なことは、このブルーノート・レーベルに残された、タイナーのアフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開のアルバムである「Expansions」「Cosmos」「Extensions」「Asante」が、日本においてなかなか入手が難しいこと。特に、「Expansions」「Cosmos」は廃盤になって久しい(というか「Cosmos」はCD化されたことが無いのでは)。
後の「ワールド・ミュージック」のエッセンスを先取りしたような、アフリカン・ネイティブな音世界をミックスした「ビッグバンド・ジャズ」的展開は、今の耳にも十分に耐え、新しい響きのように感じる。絶対に再評価すべき、タイナーのブルーノートの諸作である。
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