こんなアルバムあったんや・23
ジャズには、ジャズ・ジャイアントが生涯を通じて、時代時代でリリースした名盤もある。一流ミュージシャンが才能の輝きを見せた名盤もある。そして、時代のトレンド、時代の空気を反映した名盤もある。
このアルバムは、時代のトレンド、時代の空気を反映した名盤である。Gary Thomas『While The Gate Is Open』(写真左)。1990年5月の録音。ちなみにパーソネルは、Kevin Eubanks (g), Renee Rosnes (p, syn), Dave Holland (b), Anthony Cox (b), Dennis Chambers (ds)。
ゲイリー・トーマスは、1961年6月10日、ボルティモア生まれ。今年で52歳になりました。なんだ僕と同じ世代やったんですね。ふ〜ん、そうなんや。1986年末からマイルス・デイビスのグループに1987年3月まで在籍。たった4〜5ヶ月だったみたいで、ちょっとマイルスはお気に召さなかったみたいですね。その後ジャック・デジョネットの「スペシャル・エディション」に参加。
こうやって改めて振り返って見ると、トーマスの20歳台は、なかなか輝かしい経歴です。確か、当初は新伝承派でしたが、スペシャル・エディションの参加などを経て、M-BASE派へと変化していったようです。M-BASE派とかブルックリン派とかいう括りで評価されるケースが多いですね。
ちなみに、M-BASE理論とは、変拍子の複雑なリズムを取り入れ、バップやモードというジャズの伝統的な語法を使用しないで演奏形式の革新を目指したもので、ジャズを基調に,ラップやソウル,ファンク音楽やエスニック音楽など,その時代時代で隆盛を極めた音楽スタイルを取り入れたジャズといって良いかと思います。なんだか、エレ・マイルスに似てますね。
この『While The Gate Is Open』は、そんなM-BASE派のゲイリー・トーマスが、1990年に録音した、明らかに異色作と言えるスタンダード集です。まず、M-BASE派のジャズメンがスタンダードをやること自体、異色です。バップでもモードでも無い演奏形式の下で、ジャズ・スタンダードをやる。リリース当時は、どうしても良いイメージが出来なくて、購入を躊躇いました。
しかし、遅まきながら、最近、やっとのことで手に入れました。聴いて見ると、どこが異色作なのか、という風情の、実にメインストリームしたジャズが展開されています。
時代が進んだのでしょうね。1990年当時は、結構、このアルバムの音は革新的だったと思います。今の耳でも、ちょっとだけ新しさを感じますものね。今から20数年前だったら、これは結構賛否両論を生んだ「問題作」でもあったかと思います。
その新しさを感じるのが、冒頭の「Strode Rode」。リズム&ビートは、確かにバップでも無くモードでも無い、変則拍子を基調としたポリリズム。そこにハードボイルドなテナーが乗ってくる。テナーの吹き方も、バップでも無いしモードでも無い。トーマス独特なブロウ。バッキングを務めるピアノは「エレピ」。エレギのフレーズも革新的。この「Strode Rode」を体験するだけでも、このアルバムの価値がある。
このアルバムには、M-BASE派の考える「スタンダードな演奏」がギッシリと詰まっている。実に個性的で、実に魅力的だ。フリーキーな展開も見え隠れするが、決して歌心は忘れない。このアルバムでのトーマスのテナーは立派だ。
最近は、リーダー作も無く、なんだか鳴かず飛ばずな感もあるゲイリー・トーマスではあるが、このアルバムがある限り、ゲイリー・トーマスの名前は忘れない。このアルバムは、1990年という時代のトレンド、1990年という時代の空気を反映した名盤である。それが証拠に、1990年度のスイングジャーナルジャズ・ディスク大賞の「金賞」にも選ばれている。この「金賞」受賞は至極納得。
スイングに欠けると言われるM-BASE派のジャズであるが、この盤は、ジャズ・スタンダードを題材としているので、テーマ自体がスインギーで、演奏全体にも、ほんのりとスイング感が見え隠れする。これが堪らない。これが、この盤の魅力である。
大震災から2年5ヶ月。決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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