意外性のある楽しいトリビュート
暑い夏は、シンプルにビル・エバンスが良い。エバンスものと言っても、ビル・エバンスのトリビュート・アルバム『Portrait of Bill Evans』(写真左)。とにかく、ジャズの知識や経験があればあるほど、意外性のある楽しいアルバム。
ビル・エバンスのトリビュート・アルバムと言えば、ビル・エバンスが亡くなって以来、何十枚と出てきた。 企画物が多く、ビル・エバンスに影響を受けたジャズ・ピアニストをチョイスし、ビル・エバンスっぽく演奏させる。そんな、安直なトリビュート・アルバムが多かったので、実のところ、それらのビル・エバンス・トリビュートのアルバムには、なかなか触手が伸びなかったのが正直なところ。
しかしながら、このアルバムは、それらお決まりの「ビル・エバンスのトリビュート・アルバム」とは、ちょっと違う雰囲気のアルバムなのだ。
参加メンバーを見ても、良い意味で「実に怪しい」(笑)。まず、参加メンバーの中で目を引くのは、フュージョンの大御所、ボブ・ジェームスとデイブ・グルーシン。そして、ブラジルの美人ピアニストであるイリアーヌ。今をときめく新進気鋭のピアニスト、ブラッド・メルドー。そして、ジャズ・ピアニストの巨人、ハービー・ハンコック。
ボブ・ジェームスもデイブ・グルーシンも、昔々、彼らが駆け出しのジャズ・ピアニストの頃、確かに、彼らはビル・エバンスに多大な影響を受けたピアニストだったのだ。イリアーヌも最近の彼女のインタビュー記事で、ビル・エバンスからの影響を認める発言をしているし、ハービー・ハンコックの新人駆け出しの頃のプレイは、明らかに、ビル・エバンスの影響を受けていた。
とは言いながら、では、エバンスに影響を受けたので、トリビュート盤なので、エバンスのように演奏します、というような安直なアプローチをするミュージシャン達では無い。自分たちの個性を十分踏まえながらの、実に楽しく興味ある、独自の演奏を繰り広げているのは立派。
冒頭の「ナーディス」がその良い例だ。フュージョン畑のボブ・ジェームスとは思えないピアノが鳴り響き「おお、これはストレート・アヘッドな純ジャズか」と思うと、リチャード・ボナのエレクトリック・ベースが響き渡って、重厚なフュージョン・テイストの「ナーディス」に早変わり。
それでも、フュージョン的な音にならず、フュージョン・テイストではありながらも、しっかりと「純ジャズ」している演奏はさすがだ。特に、ボナのベース・ソロは、エバンス・トリオのスコット・ラファロを彷彿とさせて、実に立派。
ボブ・ジェームスと同じテイストがデイブ・グルーシン。彼は、その独特のハーモニー感覚で、「ワルツ・フォー・デビー」と「エミリー」を演奏して見せる。これがまた良いのですね。アドリブ・フレーズには、グルーシン独特の手癖が見え隠れして、意外と個性のかたまりの様な演奏に惹かれる。
ハービーは、相変わらずのファンク打ち込みモードで、見た目に全くエバンスとは関係ない自作の楽曲でエバンスへのトリビュートの意を表している。ハービー曰く、エバンスが生きていたら、きっと、こんなジャズをやりたかったはずだ、とのコンセプトでの自作曲の提供らしい。ちょっとした違和感を感じる。
逆に、エバンス・タッチに忠実にトリビュートするのはイリアーヌ。バックに、ドラムのジャック・デジョネット、ベースにマーク・ジョンソンと、エバンスのビアノ・トリオを経験したベテラン2人を擁して、それはそれは美しいピアノ・トリオで花を添える。
そして、驚異のピアノ・ソロで気を吐くのは、ブラッド・メルドー。 その特徴的な左手で、唯一無二、他に追従を許さない個性的かつ芸術的なソロで、エバンスをトリビュートしてみせる。
とにかく、ジャズの知識や経験があればあるほど、意外性のある楽しいアルバムです。お勧めです。
大震災から2年4ヶ月。決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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