チューリップ初期の傑作盤
とても久し振りに、チューリップのアルバム聴き直しシリーズの第5弾。チューリップを語る上で、このアルバムは絶対に外せない。今回は、我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「懐かしの70年代館」からのレビューに修正加筆して、ここに再掲したい。
さて、1970年代、日本のミュージックシーンには、ニューミュージックというジャンルも、Jポップというジャンルも無かった時代に遡る。その頃、日本のミュージックで、気の利いた優等生的な若者が聴く音楽がフォーク、ちょっと不良っぽく振る舞っていた若者が聴く音楽がロック、と大別されていた。
しかし、当時、高校生だった僕は、アコギ中心で何となく大人しい日本のフォークや、エレギで大音量でギンギン引きまくり、ボーカルが叫びまくる日本のロックはあんまり好きでは無かった。実は我が映研全体の風潮もそうだった。よって、部室では、海外のロック、プログレやハードロックばかりが流れていた。
そんな状況の中、ある日突然、プログレ鳴り響く、我が映研の部室に『TULIP(チューリップ)』という名の日本のロック・バンドのLPが持ち込まれた。当時、アイドル系として売れていた日本のロック・バンドである。当時、我が映研においては、あり得ない暴挙である。「先輩、どないしたんですか」、僕達はひっくり返った。
そもそも、我が映画研究部にチューリップのLPが持ち込まれたのは、先輩のつきあい始めた彼女がチューリップのファンで、その先輩が行きがかり上、チューリップのアルバムを聴かなけれねばならない羽目に陥ったからである(笑)。その時、持ち込まれたチューリップのアルバムが、この『TAKE OFF』(写真左)。
つまり、僕は先輩の恋の事情に巻き込まれて、チューリップを耳にした訳である(笑)。その当時、チューリップは『夏色の想い出』や『銀の指輪』でスマッシュヒットを飛ばしており、なんだか、ビートルズの物まねの様な、チャラチャラしたバンド的な印象が強かった。そこに、この『TAKE OFF』である。あまりよろしく無い先入観を持って、それでも、まあ聴いてみるか、という緩いノリで、LPに針を落とした(当時はレコードプレーヤーさ)。
出だし、である。「ダッ、ダッ、ダッ、・・・」とドラムの音、ギュワーンとギターの唸り、英語の歌詞。なんと格好良いではないか。耳に新鮮な音が飛び込んできた。そして同時に「どこかで聴いた音だ、どこかで聴いた音だ」と思った。そう、この格好良いリズム&ビートは、ビートルズそのものだった。
短くて格好良い1曲目「TAKE OFF」を経て、2曲目「明日の風」。ビートルズ風のあか抜けたアレンジに乗って、当時、アイドルだった姫野さんが、甘いボイスで唄う。3曲目は「そんな時」。当時、珍しかった12弦ギターの音が清々しい。どの曲もビートルズのフレイバーを様々にアレンジして、唯一無二のチューリップ・サウンドがてんこ盛り。
10曲目には、チューリップの名曲として名高い「青春の影」(写真右・シングルのジャケット)。シングルカットされたバージョンと違って、ストリングス控えめのシンプルなアレンジ。こちらの方が僕は好きです。そして、個人的にとても好きなメドレー「悲しみはいつも〜ぼくは陽気なのんきもの〜笑顔をみせて」。
今でもこれらの曲を聴くと、あの頃の風が頭の中を吹き抜けて、セピア色の懐かしさに包まれる。しかしながら、誤解する事なかれ。懐かしさだけで、このアルバムを聴いているわけではない。今でも、古さを感じさせない曲の構成、ビートルズのフォロワーらしいアレンジに関して、チューリップは1974年に、既に自分のものとしていたことに驚きを感じる。当時、日本のロック雑誌の権威、ミュージック・ライフ誌の「ベストアルバム・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたのも頷ける。
確かに音は少し古びているかもしれない。アレンジも稚拙な部分があるかもしれない。それでも、ここにはそれらを補って余りある、今でも通用するアルバムコンセプトと音作りがある。チューリップの代表的名盤として、Jポップの古典的名盤として、お奨めできる内容である。
このあと、チューリップは、ビートルズ・フォロワーとしての総決算アルバムとして『僕が作った愛のうた』をリリース、レコード会社に押し付けられていたロック・アイドル路線とも訣別し、チューリップ自身のオリジナリティーとサウンドを求めて、長い長いチャレンジの旅に出ることになる。
大震災から2年3ヶ月。決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。
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