ピアノ・トリオの代表的名盤・35
サー・ローランド・ハナ(Sir Roland Hanna)は、クラシック界の一流ピアニストにも匹敵する演奏技術の持ち主である。いわゆる、昔のジャズ・ピアニストによくある、テクニック的にはやや難があるが、その癖のある響きや手癖が良い、っていう感じでは無い。
とにかく、クラシック並に端正でダイナミックで美しい響きのピアノが堪能できる。ローランド・ハナのピアノは、端正でタッチが堅実、そして、典雅なフレーズ、典雅なアドリブが個性のピアニストである。リーダー作は常に平均点以上の出来をキープし、破綻が全く無い。逆に、個性的な手癖や弾き回しがある訳では無い。
端正で堅実なピアニストであるが故、代表的なリーダー作を選ぶには、相性の良いサイドメンとの競演盤か、自分にとっての選曲の良さで選ぶ傾向にある。そこで今回は、ローランド・ハナのリーダー作の中で、僕が愛聴しているアルバムをご紹介したい。そのアルバムとは、Sir Roland Hanna『Milano Paris Newyork』(写真左)。
ちなみにパーソネルは、Roland Hanna (p), George Mraz (b), Lewis Nash (ds)。2002年4月の録音。 ハナは、2002年11月に鬼籍には入ってしまったので、このアルバムは、逝去する前、僅か7ヶ月前の録音である。遺作に近い。
さて、このアルバムは、ローランド・ハナが、モダン・ジャズ・カルテットのリーダー兼ピアニストのジョン・ルイスに捧げた、美しいピアノ・トリオ・アルバムで、ジョン・ルイスが、生前、最後に共演したベースのジョージ・ムラツとドラムスのルイス・ナッシュを迎えて、心地よいスイングで愛情を込めて演奏している。
サブタイトルが「ジョン・ルイスに捧ぐ」となっているが、収録曲を眺めてみると、全てがジョン・ルイスの曲で無いのが、残念と言うか不思議というか、9曲中6曲がジョン・ルイスの曲、残りの3曲がローランド・ハナの自作曲と言った「ジョン・ルイス・トリビュート」としては不思議な構成。
それでも、ローランド・ハナのピアノは、限りなく典雅で端正。クラシック・ピアニストに比肩するテクニック。ジョージ・ムラツのベースは、鋼の様にしなやかで強靱でメロディアス。ルイス・ナッシュのドラムは多彩かつ硬軟自在。収録されたどの曲も、三人三様、テクニックのあらん限りを尽くして、弾きまくり、叩きまくる。
ファンクネスとはほとんど無縁な、クラシック・ピアノの様な、典雅で堅実なインプロビゼーションがこのピアノ・トリオの特徴。リズム&ビートは、徹頭徹尾、ストレート・アヘッドなジャズ。
こんなこと言っちゃなんだが、ジャズのジャケットは、必ずしもアルバムの演奏の内容を正しく反映しているものでは無い。このローランド・ハナのピアノ・トリオのアルバムなんて、このアルバムのジャケット・デザインが、どうして、タイトスカートを捲り上げて露わになった女性の美足なのかが判らない(笑)。
しかしながら、その演奏内容は「実に素晴らしい」の一言だ。 端正なハナのピアノ、太くてブンブンなムラツのベース、ガッチリとサポートするナッシュのドラム。どの曲も素晴らしい演奏です。と振り返ると、やっぱり、なぜ、このアルバムのジャケットが、タイトスカートを捲り上げて露わになった女性の美足なのかが、とんと判らないのだ(笑)。
さて、最後にジャズの面白い話を。このローランド・ハナ、なぜ「Sir」が付いているのか。ねっ、不思議でしょ。だって「Sir」とは、ナイト(騎士)称号を授与された人物への敬称ですよね。
1960年代の末、ハナは欧州やアフリカで、 アフリカの青少年たちの為の教育資金集めの為にコンサート活動を行った。その功績が認められて、リベリアの大統領ウィリアム・タゴマンから「サー」の称号を授与されたのだった。彼が「サー」の称号付きで呼ばれているのは、これまでに実行してきた数々の人道的活動の貢献によるものなのだ。
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