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2013年5月29日 (水曜日)

異種格闘技の美しき音の記録

1978年2月26日、東京・太平スタジオにての録音。デンオン・ライヴ・コンサートの200回記念特別セッションを収録したスタジオ録音盤。日本のフュージョンの最高峰というか、異種格闘技の美しき音の記録である。

そのアルバムとは、渡辺香津美&ミッキー吉野『カレイドスコープ(Kaleidoscope)』(写真左)。パーソネルを見渡すと、とんでも無いメンバーがずらりと並ぶ。

渡辺香津美 (g)、ミッキー吉野 (key)、向井滋春 (tb)、土岐英史 (ss/as)、植松孝夫 (ts)、岡沢茂 (b)、村上ポンタ秀一 (ds)、松本博 (p)、横山達治 (perc)、土屋昌巳 (g)、井上憲一 (g)、竹田和夫 (g)、ジョージ紫 (hammond)、ジョン山崎 (clavinet)、スティーブ・フォックス (b)、トミー・スナイダー (ds)、カルメン・マキ (vo)、酒井俊 (vo)。

よくよく見ると、まず、ミッキー吉野に代表されるゴダイゴ人脈がリズムセクションの核となり、渡辺香津美を始めとする日本フュージョン・ジャズ人脈が続く。そして、当時、異種格闘技に必須のドラム、村上ポンタ秀一が絡み、日本ロック人脈から、竹田和夫、ジョージ紫、土屋昌巳らが続く。そして、ボーカルは、なんと、日本ロック畑からカルメン・マキ、日本ジャズ畑から酒井俊が参加。

思わず「なんじゃこりゃ〜、じぇじぇ〜」と叫びたくなるような、何となく不思議なパーソネルである。日本のフュージョン・ジャズ人脈と日本のロック人脈の異種格闘技。収録された曲もなかなか面白い選曲。

1.処女航海
2.世界はゲットーだ
3.アズ
4.カレイドスコープ
 

Kaleidoscope

 
1曲目の「処女航海」は、ハービー・ハンコックのモーダル・ジャズの名曲。2曲目の「世界はゲットーだ」は、ソウル・ミュージックのボーカル・グループ、ウォーの大ヒット曲、3曲目の「アズ」は、R&Bの頂点、スティービー・ワンダーの名曲。4曲目は、渡辺香津美&ミッキー吉野の共作オリジナル。ジャズ有り、ソウル有り、R&B有り、自作有り。共通の狙いは、すばり「ファンクネス」と読んだ。

冒頭「処女航海」の酒井俊のボーカルを聴けば良く判る。本場米国のファンクネスに追いつけ、本場米国のファンクネスを身につけろ、と本気で、ファンクネスの獲得にチャレンジする、異種格闘技集団の矜持が痛いほど伝わって来る。2曲目の「世界はゲットーだ」と3曲目「アズ」のカルメン・マキのボーカルも想いは同じ。

無理しなくても良いんやけんどなあ。でも、1978年当時、日本のジャズ、日本のロックは発展途上、どうしても、先行する英米が目標になった。しかも、日本人に馴染みの無かった「8ビート&オフビート」である。感覚的に理解するのが難しい馴染みの無いファンクネスである。しかし、これを会得しない限り、個性のスタートラインに立てない。

サッカーに似ている。元サッカー日本代表監督であったイビチャ・オシムの名言が「日本のサッカーを日本化する」。この異種格闘技セッションは「日本のジャズを、日本のロックを日本化する」第一歩だったような気がする。

非常にハイレベルな素晴らしいフュージョン・ジャズが繰り広げられている。無理にチャレンジするファンクネスは、ちょっと滑り気味ではあるけれど、日本のフュージョン・ジャズのオリジナリティーは十分に確保されているではないか。乾いたシンプルな、お茶漬けの様なファンクネスの萌芽が見え隠れしている。

実に聴き応えのある、一期一会の異種格闘技セッションである。ミッキー吉野がこれだけジャジーでファンキーなキーボードが弾きこなせるとは思わなかった。そして、面白いのは渡辺香津美のエレギ。一番、ジャズ畑のエレギを想像するんだが、実は、一番、ロックっぽいエレギを弾きまくっている。そして、村上ポンタ秀一のドラミングは相変わらず天才的である。
 
 
 
★大震災から2年2ヶ月。決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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