キューン独特のソロ・ピアノ
昨日ご紹介したリッチー・バイラークのソロについては、そこはかとなくリズムを刻む左手の存在が、ジャズ的な雰囲気をほんのり醸し出している演奏だとすれば、このスティーヴ・キューンのソロは、ジャズから外れて、半ば現代音楽の域に入っている。
そのスティーヴ・キューン(Steve Kuhn)のソロ・ピアノの代表作が『Ecstasy』(写真左)。1974年11月の録音。ジャケットもECMらしい、現代美術をモチーフにした「お洒落」なもの。おおよそ、1950年代のジャズの雰囲気とは全く違う洒脱なイメージで、従来のジャズとは全く異なる、スティーブ・キューン独特の音世界の個性が漂う。
そのタッチは、ジャジーでファンキーな雰囲気は全く皆無。クラシック的ではあるが、クラシックのピアニストには無い、タッチにおける芯の強さが個性。逆に、タッチにおける芯の強さを除けば、現代クラシックのソロ・ピアノという雰囲気。
皮肉な言い方をすれば、ジャズ・ピアニストのスティーヴ・キューンが弾いているので、ジャズのジャンルで捉えられているのではないか、と疑いたくなるような、クリスタルでクラシック的、現代音楽的なソロ・ピアノが繰り出されていく。僕の印象としては、フランス印象派と呼ばれるラベルやドビュッシーを想起させる。
ECMのアルバムには、この様なジャズというよりは、現代音楽、現代クラシックといったほうがピッタリ来る録音がままある。それが、ECMレーベルの特徴なのだが、あくまで、ジャズ・ミュージシャンをメインに据えているため、タッチや出てくる音にゴリッとした芯があるのが特徴。そして、ECMレーベル独特のエコーの効いた録音が秀逸。ピアノの音のエッジが適度に立っていて、高音がキラキラしていて聴き易い。
現代音楽に近いため、不協和音も平気で使うし、荒々しいのフリーキーなタッチもバンバン出てくる。真夜中、そこそこの音量で聴き通すのはちょっと勇気のいるアルバムなので、深夜遅くにこのアルバムを聴く時は、ステレオの音量に気をつけて下さいね(笑)。
と冗談はさておき、演奏の質については全く申し分が無い。キューンの特徴である、耽美的でリリカルで透明感の溢れるフレーズと、時にフリーキーで荒々しい一面をちらつかせながら、ナルシストのキューンは美しい印象的な音を紡いでいく。
そして、最後の曲がブレイクした時、ナルシストであるキューンが、最高のエクスタシーを感じているような、楽しんでいるような、そんな充実のアルバムである。
ジャズのジャンルには、こんなソロ・ピアノもあるんだ、ということを、ジャズ者の皆さんにも体験していただきたいですね。そして、ジャズの懐の深さを実感してみて下さい。
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