自らの個性で吹くロイドは良い
チャールズ・ロイドは、どうも好きになれなかった。ロイドのテナーは、コルトレーンの影響を受けた、というか、コルトレーンそっくり。コルトレーンの演奏の要素やテクニックを全て取り込んで、耳当たりよく、聴き易くした感じ、と言って、コルトレーンほどの深みとテクニックは無い。でも、とにかく聴き易い。大衆迎合的なアプローチ。
ハードバップ時代の歌うようなフレーズや十八番のシーツ・オブ・サウンド、フリーに走った時の「スピリチュアルな咆哮」など、コルトレーンそっくりに、テクニックのレベルを落として聴き易くしたような、意外とあざとく計算された演奏が、どうにも好きになれなかった。
そんなチャールズ・ロイド。1970年代に入って、全く過去の人となった訳だが、それは仕方の無いことだろう。手品はタネがばれれば終わり。しかし、この大衆迎合型コルトレーンの完全フォローなロイドが、欧州の代表的レーベルECMに移籍する。1989年のことである。それから、約1〜2年に一枚のペースでリーダー作をリリースするようになった。
ちなみに1993年の『The Call』以来、ロイドのリーダー作は、ずっとECMオンリーである。義理堅いと言えば義理堅いし、他に受け入れてくれるレーベルが見当たらないと言えば見当たらない。しかし、ECMに移籍して以来、ECMの欧州ジャズ的カラーが、ロイドの個性を掘り起こし始める。
そして、徐々にロイドは、コルトレーンのフォローから足抜けしていく。そして、遂にコルトレーンのフォローを止める。コルトレーンのフォローを止めて、自らの個性で吹くロイドは良い。75歳にして立つ。これがロイドのテナーの個性、と確認できるアルバムが出現した。
そのアルバムは、Charles Lloyd, Jason Moran『Hagar's Song』(写真左)。2012年4月の録音。ちなみにパーソネルは、Charles Lloyd(ts,as,fl), Jason Moran (p)。ピアノとのデュオ盤である。
このアルバムには、「スピリチュアルな咆哮」は無い。ゆったりとしたテンポに乗って、スラスラスラと素直に堅実に吹き上げていくロイドのテナー。音のエッジが丸まっていて、ホンワリ優しさ漂う耳当たりの良いテナー。フルートも使う場面もあって、ちょっと民族音楽的な響きと、静的でスピリチュアルな響きと、ミステリアスな響きが実に印象的。
寄り添うように、リリカルでクールなピアノが効果的にバッキングしていく。ジェイソン・モラン。良いピアノを弾く輩だ。名門ブルーノートでコンスタントにリーダー作を制作している、現代ジャズ・ピアニストのキーマンの一人。
本作の前半はスタンダード・バラードが中心。ビリー・ストレイホーンあり、ガーシュウィンあり、ジョン・コルトレーンあり。なかなか粋な選曲。後半は全5章からなる自作組曲が中心で、10歳の時に南ミシシッピ州の自宅から連れ去られて、テネシー州の奴隷主に売られたロイドの曾々祖母に捧げられたもの。緩やかで柔らかなテンポが魅力。
思わず、聴いて思わずニンマリしたのが、13曲目の「I Shall Be Released」。ボブ・ディラン作曲、ザ・バンドの演奏曲として有名な曲がカバーされている。こういうところには、まだまだ商売っ気ありやなあ(笑)。でも、雰囲気は良い。なかなか聴き応えのある「I Shall Be Released」。
コルトレーンのフォローを止めて、自らの個性で吹くロイドは良い。75歳にして立つ。これがロイドのテナーの個性、と確認できるアルバムの出現に喝采である。
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