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2013年4月 7日 (日曜日)

鈴木茂の『Band Wagon』です

今日もバーチャル音楽喫茶『松和』の「青春のかけら達・アーカイブ」。今日は鈴木茂。鈴木茂の名前を知る人って、この時代、あまりいないだろうなあ。はっぴいえんど、ティン・パン・アレーなどのメンバーとしてギターを担当し、そのエレギの音は、聴いて直ぐに「これって鈴木茂やな」って判るほどの個性が光っていた。

そんな鈴木茂が所属したスーパーバンド「はっぴいえんど」は3枚の名作を残して空中分解してしまったが、その「はっぴいえんど」のコンセプトの正統な後継者が、この鈴木茂だった。

「はっぴいえんど」は、「あくまで日本人としてのオリジナリティーを、無理をしてでも表現しようとする精神と葛藤」が渦巻いており、メンバーそれぞれが、その良い意味での「中途半端さ」をさらけ出して、それが宝石の原石の様に純粋な美しさを放っていたのだが、その「中途半端さ」故に長続きはしなかった。無理を続けるには、4人というグループは辛かったのだろう。

そして、鈴木茂はソロになって自分なりに割り切って「はっぴいえんど」の世界を自分なりに継承した。1975年リリースの初リーダー作『Band Wagon』(写真左)で、なんと、バックを完全にアメリカン・ロックにしてしまったのである。

この大胆なアプローチによって、「はっぴいえんど」の世界での「あくまで日本人としてのオリジナリティーを、無理をしてでも表現しようとする精神と葛藤」を解放した。

さて、そのアメリカン・ロックなメンバーとは、元サンタナ・グループのダグ・ランチ(b)、元スライ&ザ・ファミリー・ストーンのグレッグ・エリコ(ds)、タワー・オブ・パワーのデビッド・ガリバルディ(ds)、そして、リトル・フィートから、ビル・ペイン(kb)、リッチー・ヘイワード(ds)、ケニー・グラッドニー(b)、サム・クレイトン(conga)といった面々。しかし、よく集めたよな〜(笑)。
 

Band_wagon

 
つまり、鈴木は、アメリカの「ベイエリア・ファンク・サウンド」をバックに、「はっぴいえんど」の世界を再現したのである。つまりは「割り切った」。無理をしてまで、日本人としてのオリジナリティーを表現するのを止めた。

ここでの唯一の日本人らしさとは「日本語の歌詞で歌っている」ことだけ。その日本語の歌詞を担当したのは「はっぴいえんど」の松本隆。松本隆の中性的で現実感の薄い漂う様な歌詞。その歌詞を基に、鈴木のボーカルは、お世辞にも上手いとはいえないが、ファンキーで超一流のバックにのって、味のあるボーカルを聴かせる。

日本語がロックに乗るか、などどいう、今ではちょっとピントの外れた議論をよそに、中性的で、良い意味で中途半端で現実感の薄い、どこか浮遊感漂う音世界が「ベイエリア・ファンク・サウンド」に乗って展開していく。 

そうすることによって、アメリカの「ベイエリア・ファンク・サウンド」をバックに、日本人が表現するロックの個性というものが浮かび上がってくるのだから不思議である。この中性的で、良い意味で中途半端で現実感の薄い、どこか浮遊感漂う音世界こそが、日本人としてのオリジナリティーのひとつであった。

「はっぴいえんど」に、アメリカン・ロックに匹敵するテクニックが無かったということを言っているのでは無い。しかし、ここで逆説的に、バックにアメリカン・ロックのミュージシャンを配して「日本人としてのオリジナリティーの追求」を排除し、ようやく「はっぴいえんど」が本当に表現したかったもののひとつを、このアルバムが実現している。ここに、このアルバムの価値がある。

このアルバムの出現によって、日本のロックは「日本人としてのオリジナリティー」という呪縛を乗り越え、得るべき個性のひとつを、ようやく手に入れたのだった。

 
 

大震災から2年。でも、決して忘れない。まだ2年。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力し続ける。 

Never_giveup_4

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