ピアノ・トリオの代表的名盤・33
ブラッド・メルドーは非常に面白い個性をしている。ジャズの歴史の中で、現在までの優秀な「スタイリスト」と呼ばれる、自らの個性を確立したジャズ・ピアニストの個性を集約した様な「個性」をしている。
ある部分はビ・バップであり、ある部分はモードであり、ある部分はフリー。そして、ある部分はセロニアス・モンクであり、ある部分はビル・エバンスであり、ある部分はキース・ジャレットであり、ある部分はチック・コリアだったりする。マッコイ・タイナーの「シーツ・オブ・サウンド」的な奏法も披露するし、レニー・トリスターノの様な「クール奏法」もちらりと顔を出す。
つまり、ブラッド・メルドーのピアノの個性は、それまでのジャズ・ピアノのスタイリスト達の個性のショーケース的なところ。しかし、ブラッド・メルドーの非凡なところは、その「それまでのジャズ・ピアノのスタイリスト達の個性」が単なる物真似になっていないところ。そして、個性のごった煮的雰囲気なんだが、演奏のトーンがバラバラにならずに「一貫性」を保っている。
ブラッド・メルドーのピアノは、「それまでのジャズ・ピアノのスタイリスト達の個性」を自らのものにして、自らの個性を反映し、一貫性を保った、独特の弾き回しになっているのだ。これが素晴らしい。
僕のジャズ・ピアノの基準のひとり、ブラッド・メルドー。彼が率いるトリオ「Art Of The Trio」が素晴らしい。パーソネルは、Brad Mehldau (p), Larry Grenadier (b), Jorge Rossy (ds)。このトリオが素晴らしい。
その「Art Of The Trio」は、シリーズで、Vol.5までのアルバムを立て続けにリリースした時代があった。そのシリーズでリリースされた、Vol.5までのアルバムがこれまた素晴らしい。
そのシリーズでリリースされた盤、どれもが素晴らしい出来だが、僕はこの4枚目の、Brad Mehldau『Art Of The Trio, Vol. 4: Back At The Vanguard』(写真左)が一番、ブラッド・メルドーのピアノを愛でるに相応しい、「Art Of The Trio」としての最高の出来を示した逸品だと思う。1999年1月5〜10日、NYはヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ録音。
メルドーのピアノはストイックで堅実。理知的な響きでペダルも適度。キース・ジャレットの様に、ペダル豊かにロマンチシズムに流れることは無い。ユニゾン&ハーモニーにはモンク的な不協和音的な響きが混在する。これはキースには無い。一時、メルドーはキースのフォロワーであり後継者である、なんていう、とんでもない勘違い的な評論がもてはやされた時期があったがとんでも無い。メルドーのピアノとキースのピアノは非なるもの、である。
右手と左手、別々の旋律を弾くという離れ業も十二分に聴かせてくれる。やはり、スタンダードが良い。スタンダードを聴くと、メルドーの個性が浮かび上がってくる。他のピアニストに無い、複合的な個性。テクニックも非常に優秀。破綻の非常に少ないところは天下一品。
冒頭の「All the Things That You Are」にメルドーの独特の個性をふんだんに聴くことが出来る。4曲目の「Solar」はマイルスの名曲。6曲目の「I'll Be Seeing You」の出来も良好。ラストの「Exit Music (For A Film)」はRadioheadの作。いわゆるニュー・スタンダードである。メルドーの先取性は素晴らしい。やはり、個性を確認するにはスタンダードやなあ。
弾きまくるメルドー。バッキングに回ったベースとドラムも素晴らしい出来。ジャズ・ピアノのダイナミズムをも同時に体験出来る。メルドー初期の傑作ライブ盤である。ヴィレッジ・ヴァンガードらしいデッドな音もグッド。でも、ジャケット・イマイチで、ちょっと損をしている。でも、内容は素晴らしい。メルドーのピアノを聴き込みたい時のヘビロテ盤。
Brad Mehldau『Art Of The Trio, Vol. 4: Back At The Vanguard』を謹んで、ピアノ・トリオの代表的名盤にノミネートしたい。
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