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2013年2月14日 (木曜日)

バグスとマイルスのグルーヴ感 『Bags' Groove』

ジャズ・ヴァイブの第一人者ミルト・ジャクソン。あだ名は「バグス」。眼下の弛みにちなんでこう呼ばれていた。「バグス」と言えば、ミルト・ジャクソン本人作の「Bags' Groove」という名曲がある。日本語に訳すと、バグスの「ノリ」。つまりは、ミルト・ジャクソンの「ノリ」。

「Bags' Groove」は今やジャズでの名スタンダード化しており、ミルトが参加していたMJQの十八番でもあり、ミルト自身、ソロで活動していた折にも、この「Bags' Groove」を好んで演奏していた。シンプルさが際立つ、ブルージーでファンキーな旋律が心地良いFのブルース。

この「Bags' Groove」が、とてもアーティスティックにジャジーにブルージーに演奏されているアルバムが、Miles Davis『Bags' Groove』(写真左)。このマイルスがリーダーとなって吹き込んだ「Bags' Groove」が、僕にとっては一番の「Bags' Groove」。

アルバム全体の収録曲は以下のようになっている。このアルバム、プレスティッジ・レーベルからのリリースとなっているんだが、曲の収録は、プレスティッジお得意の寄せ集めとなっている。このアルバムでは、2つのセッションからの寄せ集めとなっており、1・2曲目の「Bags' Groove」と、3曲目以降の演奏とは、演奏メンバーも異なれば、演奏日も異なる。

1. Bags' Groove (Take 1)
2. Bags' Groove (Take 2)
3. Airegin
4. Oleo
5. But Not For Me (Take 2)
6. Doxy
7. But Not For Me (Take 1)

1・2曲目の「Bags' Groove」は、1954年12月24日の録音。パーソネルは、Miles Davis (tp), Milt Jackson (vib),  Thelonious Monk (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。

ミルトの参加していたMJQ(Modern Jazz Quartet)のメンバーから、ピアノのジョン・ルイスをセロニアス・モンクに代えたもの。このセロニアス・モンクの参加が、この「Bags' Groove」を、とてもアーティスティックにジャジーにブルージーに仕立て上げている。
 

Bags_groove

 
ちなみに、この1954年12月24日の録音の残りの演奏は、別のアルバム『Miles Davis And The Modern Jazz Giants』としてリリースされています。つまり、かの有名な「マイルスとモンクのクリスマス・セッション」と呼ばれる1954年12月24日の録音は、2枚のアルバムに跨がって収録されていることになります。面倒くさいことをしてくれたものです。

しかし、ここでの「Bags' Groove」は素晴らしい。マイルスのクールでリリカルな抑制の効いたトランペット、ミルトのブルージーでそこはかとなくファンキーで端正なヴァイブ、堅実なパーシー・ヒースのベースに、バップなリズムが魅力のケニー・クラークのドラム。特に、MJQ以外では自由奔放なソロを取る傾向のあるミルトが結構、抑制の効いたソロを聴かせてくれるところが「聴きどころ」。

そして、何よりも増して素晴らしいのが、モンクのピアノ・パフォーマンス。木訥とした不規則なタイム感覚のフレーズに、微妙で不思議な間。どこにも無い、聴いたことの無い独特のフレーズの積み重ね。シンプルさが際立つ、ブルージーでファンキーな旋律が心地良いFのブルースが、アーティスティックな名演となって生まれ変わっている。

この「Bags' Groove」は、Take1とTake2と、2つのテイクが収録されていて、即興の音楽芸術とされるジャズの醍醐味を十分に味わうことが出来ます。どちらが良いか、って。どちらも良いです(笑)。

曲目の「Airegin」以降は、「Bags' Groove」の収録から遡ること、なんと半年ほど前の1954年6月29日の録音で、しかもパーソネルがガラリと替わります。これはもう「別物」ですね。ちなみにパーソネルは、Miles Davis (tp), Sonny Rollins (ts), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds)。ピアノがファンキーなホレス・シルバー。ピアノが違えば、リズム・セクションの雰囲気はガラリと変わります。

若きソニー・ロリンズの自由奔放なテナーが魅力ですが、先の「Bags' Groove」の演奏内容とは「水と油」で、2つのセッションからの寄せ集めという事情を知らないと、初めてこのアルバムを通して聴いた時、かなりの違和感が残ります。

ジャケット・デザインも、玉成混交としているプレスティッジ・レーベルとしては優秀な部類で、タイポグラフィーが実に魅力的です。アルバム・タイトル通り、このアルバムは、冒頭2曲の「Bags' Groove」を愛でる為にあるアルバムと極言しても良いかと思います。
 
 
 
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Never_giveup_4

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