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2012年11月 8日 (木曜日)

邦題は『遙かなるサンファン』

このアルバムは完璧なスムース・ジャズである。1982年のリリース。1982年にして、この完成度の高さ。Spyro Jyra(スパイロ・ジャイラ)はフュージョン・バンドから、スムース・ジャズへ、非常に上手くモデル・チェンジした。

そのアルバムとは『Incognito(インコグニート)』(写真左)。インコグニートとは「匿名(者)」の意味を持つ。なるほど。だから、このジャケット・デザインなんか。このジャケット・デザインはまるで「ヒプノシス」。プログレ・ロックだったらあり得るが、フュージョン・ジャズではあり得ない。レコード屋でこのジャケットを見た時は「これはちゃうやろ〜」と思わず呟いた。

このアルバムに詰まっている演奏の数々は、どれもが端正で整然としていて、全く破綻の無い、非常にテクニックにも歌心にも優れたフュージョン・ジャズ。後の「スムース・ジャズ」に繋がる、とても聴きやすく、とてもキャッチャーで、とてもメリハリの効いた優れものである。

演奏テクニック、ソングライティングのセンス、演奏のアレンジ、フロント楽器の歌心、どれもが完璧。特に、Jay Beckenstein(ジェイ・ベッケンスタイン・写真右)のソプラノ・サックスの音色が良い。ブラスが鳴り響き、切れ味の良い、哀愁感漂う、実にキャッチャーなフレーズの数々。しかし、この読みにくい、口に出して言い難い、ちょっと長いので覚え難い名前で損してるよな、ベッケンスタインって・・・(笑)。

僕は特に、3曲目「Harbor Nights」〜 4曲目「Stripes」〜 5曲目「Oasis」の辺りの流れにグッとくる。哀愁感漂うソプラノに、メリハリの効いたダイナミックな展開、印象的なエレギのフレーズに、ビートの効いたエレベ。切れ味の良いドラムも凄い。
 

Incognito

 
特に、スパイロ・ジャイラって、ブラスの音色が凄く良い。明るく輝く様なブラスの響きに、そこはかとなく漂う哀愁感が堪らない。そして、演奏全体の雰囲気がドライ。乾いている。この「乾いている」ところがミソで、 この乾いた演奏の中に、ウェットな哀愁感漂うソプラノ・サックスがス〜ッと入ってくるのだ。演奏全体の陰影がグッと濃くなった様な印象を受ける。いわゆる「スパイロ・マジック」である。

とにかく健康優良児的な明るくて乾いた演奏なので、決して、夜のしじまの中で聴くことはないけど、朝日の中で、モーニング・コーヒーを飲みながら耳を傾けるのにピッタリなスムース・ジャズです。

しかし、このアルバム・タイトルの『Incognito(インコグニート)』。邦題は『遙かなるサンファン』。原題とは全く異なる。なんなんだ、この邦題・・・。

はあ〜なるほど。2曲目の「Old San Juan」の サン・フアン(アメリカ合衆国プエルトリコの都市の名前・世界遺産登録されている)を取ってきたのか。まあ、邦題を「匿名」とするのもなんやし、「インコグニート」とシンプルに仮名表記するにも、パッとしなかったんやろうなあ。

ジャケット・デザインと言い、邦題と言い、なんだか「引いて」しまいそうなアルバムですが、内容は素晴らしい出来です。スムース・ジャズの原点の一枚として、歴史的にも重要なアルバムだと思います。

 
 

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Never_giveup_4

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