マルグリュー・ミラーの個性
1978年からジャズ者としてジャズを聴き始めて、1970年代後半のフュージョン全盛時代、そして、1980年代に入ってからのメインストリーム・ジャズ復古の時代。いずれもリアルタイムで体験してきた。
やはり、ジャズ者初心者駆け出しでも理解出来たのが「ウィントン・マルサリス」の出現。これは確かにセンセーショナルだった。ジャズ者初心者駆け出しでも、そのトランペットの凄さが判るのだ。そして、このウィントン・マルサリスを中心に、メインストリーム・ジャズ復古、アコースティック・ジャズ復古の動きが加速していく。
そんなムーブメントを支えるメンバー達を指して、当時、ジャズ雑誌「スイング・ジャーナル」は『新伝承派』と名付けた。「伝承」という言葉について、ジャズは「過去の伝統」の様に聞こえるところが引っ掛かったみたいで、あまり定着しなかった。手短かに言えば「伝統的なアコースティック・ジャズを継承するグループ」。
実はこの新伝承派の連中のジャズって、結構、僕は気に入っている。過去の伝統的なアコースティック・ジャズを物真似するのでは無く、しっかりと自らが解釈して、自らのオリジナリティーを付加して、新しい展開やスタイルのアコースティック・ジャズに昇華させているところが、いたく感じ入る部分である。簡単そうに見えて、これってなかなかに難しい。十分にジャズを勉強する必要があるし、演奏テクニックもまずまずのところまで達する必要がある。
そんな新伝承派の中で、お気に入りのピアニストのひとりが、Mulgrew Miller(マルグリュー・ミラー)。マルグリュー・ミラーは1955年生まれだから、ほぼ同世代。そんな関係から、デビュー当時から、ずっと追いかけてきた。なんだか感性に合うですよね〜、彼のピアノって。
そんなマルグリュー・ミラーのピアノの個性は、やはりトリオ編成のアルバムが良いだろう。『Keys To The City』(写真左)というピアノ・トリオ盤である。1985年6月の録音。ちなみにパーソネルは、Mulgrew Miller (p), Ira Coleman (b), Mervin Smitty Smith (ds)。
本盤は、マルグリュー・ミラーが30歳の時に録音した初リーダー・アルバムです。これがまあ、非常にマルグリュー・ミラーのピアノの個性が良く判るアルバムなんですね。
彼のピアノのスタイルは、前にも書いたが、それまでのジャズ・シーンの中で「ありそうでない」スタイルをしている。部分部分を聴きかじると、過去の誰かのスタイルと同じじゃないか、と思うんだが、全体を通じてしっかり聴くと、過去の誰かのスタイルを踏襲していることは無い。これが実に面白い。つまりは、新伝承派のモットーを地で行っているということ。
この初リーダー作をちょっとだけ聴くと、パッと思い浮かぶスタイルは、マッコイ・タイナー。左手の力強い和音、右手の高速フレーズ。左手の重さの上で、飛翔するように疾走する右手。なんだけど、マルグリュー・ミラーはちょっとマッコイとは違う。マッコイの右手は泥臭くファンキー。しかし、ミラーの右手は優雅で明るい。左手の入れ方もちょっと違う。マッコイは力任せにガーンといく。ミラーは考えながら左手を入れる。ミラーの左手の和音の作りとタイミングのバリエーションが非常に豊か。
そして、ミラーの右手のフレージングはビ・バップに通じるものがあって、非常にテクニカル。ファンクネスを限りなく絞り込んだ、禁欲的でシンプルなフレーズ。その割に考えながら入れる左手はかなりジャジー。左手はハードバップ、右手はビ・バップ、とでも表現したら良いかなあ。この右手と左手の響きの違いも、ミラーのピアノの個性と言えば個性。
なかなかに興味深いマルグリュー・ミラーの初リーダー作は、ちょっと優れた、なかなか隅に置けないピアノ・トリオ盤です。また、この盤のプロデューサーはオリン・キープニュースなんですね。なるほど、この盤の内容の良さに、プロデュースも一役買っていたんですね。なるほど。良いアルバムとはそういうものですね。
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日本人で最近このマルグリュー・ミラーからかなり影響を受けているジャズピアニストが出てきています。大林武司さんといってバークレー卒業後、今はニューヨークで活躍されています。今年、米国ブルーノートからメジャーデビューした黒田卓也さんや、アルトの新星エレナ寺久保さんは、自分のリーダーバンドではこの大林さんを指命されています。これからがますます楽しみなピアニストです。
http://youtu.be/BgGgra_ZaVE
投稿: flyingshogosan | 2014年6月15日 (日曜日) 18時04分