すべては移り変わってゆく・・・
今年は、ビートルズ生誕50周年である。とは言うものの、目立った企画がある訳では無い。オリジナルLPが再発されるくらいかなあ。そして、その2012年もあと残り2ヶ月である。しかし、ビートルズ生誕50周年である。今年の残りの土日は、ビートルズやビートルズのメンバーにまつわるアルバムを取り上げたい。
さて、ジョージ・ハリソンは、かの偉大なるザ・ビートルズのメンバーだった訳であるが、このビートルズにおいて、ジョージ・ハリスンの立場は非常に厳しいものであったことは想像に難くない。バンド内でコンポーザーとして主導権を握っていたのは、ジョン・レノン&ポール・マッカートニーの2人であり、ハリソンは優れたソングライターでもあったのだが、作品発表の場に恵まれなかった。
そして、1970年にビートルズは解散。同年、彼は当時としては異例中の異例の3枚組(!)アルバム『All Things Must Pass』(写真左)を発表する。思うに、ジョージ・ハリソンと言えば、やっぱり、まずはこの『All Things Must Pass』でしょう。まず、これを体験しないと、ジョージ・ハリソンを体験したとは言えない、それくらいの「大傑作名盤」です。
しかし3枚組ですよ、3枚組。中学〜高校時代、僅かばかりの小遣いの中から捻出できる金額ではなかったなあ。だから、フル・アルバムとして聴いたのは、大学に入ってから、しかも、友達から借りて、カセットテープにダビングして聴き込んだことを覚えている(笑)。
プロデューサーにフィル・スペクターを迎え、デラニー&ボニーとの友好関係からアメリカ南部のミュージシャンたちが大挙参加。では、ジョージの曲はと言えば、アルバム全体を通して、全ての曲が美しく、心地よく、とにかく「ジョージの音、ジョージの曲」という、個性がはっきりとした楽曲が並ぶ。後期ビートルズ色が濃い部分もあって、やはり、ビートルズ時代に書きためたオリジナルを一気にはき出した、という言葉がピッタリな感じだが、でもジョージからすると、溜飲が下がったんだろうな。
でも、何も3枚組で出さなくてもいいのに。1枚ずつ、小出しにリリースしていく、ということは考えなかったのかなあ。でも、これもジョージらしいといえば、ジョージらしいと言える。オリジナルジャムの方は、なぜ、こんなジャム・セッションをわざわざ収録しなければならなかったのかな、とは個人的には思いますが、それはそれとして、喜々として、メンバーと楽しみながら、アマチュアのように演奏しているジョージの姿が目に浮かぶ。ちょっと微笑ましく、かといって、ジョージの暴挙でなければ納得できない、複雑な気持ちのするジャム・セッションではある。
アルバム全体を支配する録音も実に特徴的で、1970年代を代表する録音プロデューサーの一人、フィル スペクター(アルバム『Let It Be』でお馴染のプロデューサーです)のサウンドの代表作ともいえる、いわゆる「音の壁」が炸裂。エコーをかけたボーカルに、何度も多重録音された楽器の音が何重にも重なり、独特のベールを被ったような「不思議なモコモコ」した音が実に特徴的。
フィル・スペクターの「音の壁」は、他のアルバムでも聴くことができますが、この『All Things Must Pass』では、実に分厚く「音の壁」がかかっており、「音の壁」ファンには堪えられない音世界になってます。ジョージはこのエコー過剰のオーバープロデュースを問題視し、リリース前に再ミックスを考えたほどだったらしい。デジタルのクリアな音を聴き慣れた耳には「録音状態最悪」に聴こえるかもしれない(笑)。
さて、この『All Things Must Pass』はこのままでは終わらない。2001年1月には名盤『All Things Must Pass』にボーナス・トラックを追加したアルバムをニュー・センチュリー・エディション(写真右)として発表。2000年に録音した「マイ・スウィート・ロード2000」や未発表だった曲なども収録。ジョージ・ハリソンがビートルズ解散後間もない1970年に発表した傑作が、30年の時を経て、新たにデジタル・リマスタリングされ、生まれ変わっている。
以前のCDと比べ音が格段に向上、加えて、未発表ヴァージョン曲や新録音の楽曲を収録、さらに曲の収録順番まで新たに見直された。プロデューサーのフィル・スペクターによる「音の壁」も、アナログ的なモコモコ感が払拭されて、かなりクリアな音になった。
そういう意味では、あれから30年たって、やっとジョージ好みの音にリミックスされた、とも言えるのですが、あの独特な「音の壁」が身をひそめ、LP時代の音とは全く別次元の「つぶのしっかりした芯の有る音」に劇的に変化したことが、良いことなのか悪いことなのか、なんだか、複雑な思いです。
ジョージが目指した(であろう)サウンドを聴くなら本盤を、1970年のあの懐かしい、LP時代のスペクターサウンド「音の壁」を聴きたければ旧CD(旧ミックスは、とてもわかりやすい典型的なスペクターサウンドです)を、というお勧めにもなりそう。
そして、ジョージ・マニアは両方必要ですね、これは・・・。なんだか悩ましいアルバムが出たものだなあ。でも、アルバム全体の音が格段に向上したことは大いに評価されるべき、リマスター盤です。
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