モードジャズの「目指すべき姿」
待望の新「音楽監督」のウェイン・ショーターを迎え入れての、久々のスタジオ録音になる。1963年4月の『Seven Steps To Heaven』関連のスタジオ・セッション以来、約2年ぶりのスタジオ録音である。待ちに待ったショーターの参加である。
ウェイン・ショーター参加後のアルバムとしては2枚目になる。先に、1964年9月にライブ録音が実現し、『Miles in Berlin』のタイトルでリリースされている。
このお披露目ライブの中心人物のショーターのテナーはどうかと言えば、まだまだ革新的とは言い難いものだった。切れ味の鋭い、間を活かしたマイルス好みのコルトレーンという風情で、1964年の時点で、マイルス・クインテットにコルトレーンが在籍していたら、きっとこういうブロウをしただろうなあ、と強く思わせるコルトレーン・ライクなブロウ。
待望のショーターを迎えてのスタジオ録音盤のタイトルは『E.S.P.』(写真左)。改めてパーソネルは、Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)。1965年1月20日の録音になる。
このスタジオ録音盤の内容は素晴らしい。ハードバップの演奏ルーティンを総括し、ハードバップが獲得したグループ・サウンズとしての表現、アレンジを総括し、モード・ジャズの演奏スタイルの「目指すべき姿」を指し示した、当時のジャズのみならず、現代のジャズにおいても、メインストリーム・ジャズの「最終形」としての一つを表現した、「目標となるべき演奏の形態」がギッシリと詰まっている。
この名盤においては、バックのリズム・セクションが素晴らしく「革新的」。ショーターが参加するまで、ライブ中心に鍛えに鍛えた革新的なリズム・セクション。メインストリーム・ジャズの「最終形」としての一つを表現した、「目標となるべき演奏の形態」を表現する為の「特別なリズム・セクション」。
トニー・ウィリアムスの超高速レガートを核とした「モーダルなドラミング」が、演奏全体の雰囲気を引っ張る。そこに、ハードバップ時代のピアノの要素を集約し、そこにトリスターノ流のクールでパルシブなタッチを織り交ぜた、これまた、当時として「革新的」な、ハービー・ハンコックのピアノが絡む。
が、このアルバムで一番「革新的」なのは、ロン・カーターのベース。ハードバップ時代、ベースの基本スタイルとなったウォーキング・ベースを全く排除し、トニーのパルシブなビートに呼応するような、細かく刻まれたシーツ・オブ・サウンドの様なベース。トニーのパルシブなドラムとロンのパルシブなベースが、音の「間と伸び」を活かした、マイルスやショーターのフロント楽器のモーダルな演奏にベスト・マッチするのだ。
ショーターのテナーは確実に進化していて、徐々に「ショーター」らしいテナーの響きを獲得しつつある。まだまだ、コルトレーン・ライクな響きが演奏全体の半分くらいを占めるが、後の半分は、しっかりと「ショーター」した音が実にユニーク。これが、後に「宇宙人」的フレーズ、などど評される、ショーター独特のモーダルな響きである。それまでのジャズ・テナーのスタンダードだった、コルトレーン的な音、ロリンズ的な音とは全く異なる「第三極的」なテナーとなるショーターの音。
しかし、やっぱり、このアルバムの演奏の中で、一番、格好良くて、一番に良い良いところも持って行くのは「マイルス」。モーダルな演奏を最大に惹き立たせるリズム・セクションを得て、マイルスのモーダルなトランペットが、自由自在に変幻自在に、切れ味良く、爽快に浮遊していく。このアルバムでのマイルスのトランペットは成熟の極み。
さすがはマイルス。メインストリーム・ジャズは「かくあるべし」という雰囲気のアルバムは神々しくもあります。冒頭のタイトル曲「 E.S.P. 」の出だしのフレーズを聴くだけで、ハードバップの延長線上では無い「新しいメインストリーム・ジャズ」の響きを感じます。マイルス者中級者必須の名盤です。
ちなみに、ジャケット写真で、マイルスが見上げている女性は、当時の奥方のフランシス。なんとなく仲睦まじそうですが、なんと、この写真が撮られた1週間ほど後にフランシスは家を出て、2人の結婚生活は破綻するんですね。「マイルスは小説より奇なり」です(笑)。
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