ブラッド・メルドーの攻略法・3
このアルバムは、ブラッド・メルドーの代表作の一枚だと思う。1998年5月27・28日ニューヨーク・ライトトラック・スタジオにて録音。タイトルは『The Art Of The Trio, Vol. 3』(写真左)。
このアルバム全体を覆う雰囲気は「マイナーな哀愁」。ブラッド・メルドーのピアノの個性は、それまでのジャズ・ピアノのスタイリスト達の個性のショーケース的なところ。しかし、このアルバムは、その「ショーケース的なところ」を広く「マイナーな哀愁」でラッピングしている。
このアルバムを聴いて、全面に押し出されている雰囲気は「マイナーな哀愁」。徹頭徹尾、冒頭の「Song-Song」から、ラストの「Sehnsucht」まで、どっぷりと「マイナーな哀愁」。マイナーに暮れなずむ「夕暮れ時のダークな雰囲気」。哀愁感を増幅させるエコー・ペダル。哀愁感を際立たせるマイナーコードの羅列。
このアルバムを覆う「マイナーな哀愁」は、決して、ファンキーなマイナーさでは無い。アフリカン・アメリカンのネイティブな響き、ファンクネス漂うマイナー調とは全く異なる。クリスタルで色づけの無い、ヨーロピアンなマイナー調。クラシックを感じさせる、ジプシーなどの大道芸的な「哀愁感だけが漂う」マイナー調。
ブラッド・メルドーは、1970年8月23日フロリダ州マイアミで生まれる、とある。それでも、彼のピアノの音は「欧州」そのもの。決して、アメリカン・ジャズの代表的雰囲気である、アフリカン・アメリカンな響きは実に希薄。そういう雰囲気は、以前のジャズ、そうキース・ジャレットの響きに似ている。
しかし、キースは時に、ゴスペルチックでアーシーなアフリカン・アメリカンな旋律に音を染める。しかし、メルドーには、アフリカン・アメリカンな旋律に音を染めることは決して無い。といって、耽美的でリリカルが全面に押し出た「欧州的」な旋律とはちょっと異なる響き。つまりは、ブラッド・メルドーのピアノって、決して「隅に置けない」ということ。
聴けば聴くほど、このアルバムを覆う「マイナーな哀愁」が、単純な「哀愁感」では無いことが判ってくる。聴く度に角度を変えるように、ニュアンスを変える、ブラッド・メルドーの「マイナーな哀愁」。聴き応え十分。
ブラッド・メルドーの「トリオの芸術」。アルバム全体で醸し出すアーティスティックな雰囲気は、メルドー独特な個性。「ショーケース的なところ」を広く覆い尽くしながら、全面に押し出された「マイナーな哀愁」。ブラッド・メルドーのピアノの個性の最初の到達点である。見事なピアノ・トリオなアルバムである。
大震災から1年半が過ぎた。決して忘れない。常に関与し続ける。
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