「多様性」が魅力のゴンサロ
ゴンサロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba)というピアニストがいる。1963年5月、キューバはハバナの生まれ。現在では「キューバの至宝」と呼ばれる世界的ジャズ・ピアニストである。が、しかし・・・。現在の日本でのネーム・バリュー、人気はイマイチ。
1990年モントルー・ジャズ祭に出演、そのライヴ音源がワールド・デビュー盤『アット・モントルー』として発売され、一躍、日本で人気ピアニストになった。その後、2枚目のリーダー作『ロマンティック』、3枚目のリーダー作『ラプソディア』と連続でスイングジャーナルの金賞を受賞。僕もしっかり覚えていますが、1990年代前半は結構な人気ピアニストだったんですよね。
それが、1993年リリースの『Diz』以降、人気が下降。4年ほど、リーダー作を出さなかった影響もあって、日本では完全に過去の人扱い。海外のジャズ界では十分に活躍していた中堅ピアニストだったにも拘わらず、です。1997年以降、1〜2年に1枚のペースで、リーダー作をコンスタントにリリースしているんですが、日本ではどうも人気が無い。とあるジャズ者評論家などは「彼の音楽性はさっぱり理解不能になった。デビュー当時は素晴らしいピアニストだったのに・・・」なんて評価を下す始末。
しかし、僕にとっては、ゴンサロが一貫してお気に入りのピアニストで、暫くはリーダー作の多くが廃盤になって、CDでの入手が困難な時期がありましたが、最近、その状況も改善されて、十分にゴンサロのピアノを楽しむ事が出来るようになりました。
ゴンサロのピアノは、ビ・バップ・マナーの超絶技巧な高速ピアノと、ビル・エバンスの様な、間を活かした、印象派マナーの耽美的でリリカルなピアノが両立した、唯一無二な個性が特徴。「お前、一体どっちやねん」と思うジャズ者の方もいらっしゃるみたいですが、どっちもゴンサロのピアノなので、どちらかにしろ、というのは、それは聴く側の「我が儘」というものですね(笑)。
加えて、ゴンサロの特徴は、コンポーザー&アレンジャーの才が優れていること。日本では、あまり注目されることが無いみたいですが、僕は、ゴンサロの作曲とアレンジメントの才能には素晴らしいものがあると思っています。アコピとエレピの両方を弾きこなし、かつ、どちらも非常に優れたパフォーマンスを感じることが出来る優れもの。これも優れたアレンジメントの成せる技。
そして、ゴンサロのピアノ・フレーズの中には、カリビアンな雰囲気、カリプソな雰囲気がそこはかと無く漂う。そりゃそうで、ゴンサロはカリブ海に浮かぶキューバ島の出身でしたね。
そんなゴンサロの個性や特徴をまとめてアルバム一枚に凝縮した、ゴンサロを個性や特徴を一気に感じることの出来る「お徳用盤」があります。2004年にリリースされた『Paseo』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Gonzalo Rubalcaba (p,key,per), Luis Felipe Lamoglia (sax), Jose Armando Gola (el-b), Ignacio Berroa (ds)。
冒頭の「El Guerrillero」を出だしのピアノを聴いて、思わず「ニンマリ」。この曲の持つユーモアのセンスに、ゴンサロのコンポーザー&アレンジャーの才を強く感じます。このコンポーザー&アレンジャーの才が、ゴンサロのピアノに魅力的な「幅」を与えているように感じます。ただ弾きまくるだけでは無い。自らのピアノの個性を最大限に活かす「コンポーザー&アレンジャーの才」。
このアルバムでのゴンサロのピアノも進化していることを感じる。ビ・バップ・マナーの超絶技巧な高速ピアノと、ビル・エバンスの様な、間を活かした、印象派マナーの耽美的でリリカルなピアノに加えて、セロニアス・モンクの語法をベースにした現代音楽的な幾何学模様的なモーダルなピアノの展開。どっかで聴いた雰囲気やなあ、と思っていたら、そうそう「チック・コリア」のモンク的フレーズの組み立てに良く似ています。
そう言えば、ゴンサロのエレピの展開もチックに良く似ている。そう言えば、ゴンサロとチックって似ている。優れたピアニストであり、優れたコンポーザー&アレンジャーであり。チックはフレーズの奥にそこはかとなくスパニッシュな響きを感じさせ、ゴンサロはフレーズの奥にそこはかとなくカリビアンな響きを感じさせる。なんだか良く似ているなあ。
ビ・バップ・マナーの超絶技巧な高速ピアノと、ビル・エバンスの様な、間を活かした、印象派マナーの耽美的でリリカルなピアノも十分に「健在」。Luis Felipe Lamogliaのサックスも良好。エレベとドラムのリズム・セクションもノリが良く、テクニックも優秀。アルバム全般を通じて、なかなかに優れたコンテンポラリー・ジャズを展開しています。
ラストの「Los Buyes」が、現在のゴンサロを象徴している様な、カリビアンな、心地良く楽しい演奏だ。間を活かしながらの、カリビアンな、カリプソチックな演奏は「音楽の楽しさ」を十二分に伝えてくれる。
ストレート・アヘッドなメインストリームなジャズもあり、フュージョン風のコンテンポラリーなジャズもあり、このアルバム『Paseo』では、ゴンサロのコンポーザー&アレンジャーの才が全開。これがゴンサロ。この多様性こそがゴンサロの個性であり、特徴でもあります。この多様性が楽しい。画一的で単純で判り易い個性だけが「優れもの」ではありませんね。
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