来日時のコルトレーン・その1
ジャズ・テナーの巨人、ジョン・コルトレーンは、1966年の夏、日本にやって来た。コルトレーンが急逝したのは、1967年の夏なので、逝去するちょうど一年前での来日になる。しかし、リアルタイムとしては、誰も一年後のコルトレーンが鬼籍に入るなんて思っていない。当然、本人だって思っちゃいない。
コルトレーン来日のライブの記録が残っているのが嬉しい。CD4枚組の『LIve In Japan』(写真左)。昨年の10月、SHM-CD化、コルトレーンの肉声が聴ける来日時のインタビューの追加、藤岡靖洋氏によるインタビュー音源の日本語訳全文等の添付資料の充実を目玉に、リイシューされた。もともと、音源はモノラルで、今回のリイシューで、更に音が整った感じが実に良い。
時折、ジャズ雑誌に特集されるコルトレーンのアルバムの中でも『アセンション』と並んで、「コルトレーン教の殉教者」しか踏み入れてはいけない領域にある、コルトレーンのアルバムの中でも、かなり尖った内容が「悩ましい」。
Disc I
1. Afro Blue (38:48)
2. Peace on Earth (26:27)
Disc II
1. Crescent (54:36)
ちなみにこの来日時のパーソネルは、John Coltrane (ss, ts, as, perc), Pharoah Sanders (ts, bass-cl, as, perc), Alice Coltrane (p), Jimmy Garrison (b), Rashied Ali (ds)。Disc1・2は、1966年7月11日、東京サンケイ・ホールでのライブ録音。
1曲の演奏が短いものでも26分程度、長いもので50分を超える長尺もの。CD2枚で収録された曲が「たったの3曲」。しかし、今でも不思議に思うのだが、コルトレーンは何故、これだけの長時間、延々とフリーキーでアブストラクトなブロウを繰り広げなければならなかったのか。
このCD1・CD2の収録されている「Afro Blue」「Peace on Earth」の出だしの3〜5分のコルトレーン、「Crescent」の冒頭ギャリソンの超ロング・ベースソロの後に出てくるコルトレーンは、スピリチュアルでモーダルで力強くて、とっても素晴らしいんですが・・・。その後、コルトレーンとファラオ・サンダースが、コッテコテのフリーキーでアブストラクトなブロウを延々と(少なくとも20分以上!)繰り広げるのだ。これが凄いというか、辛い(笑)。
しかも、アリス・コルトレーンのピアノも、ピララピララピラランと広がる様な単調なフレーズを繰り返すだけでかなり辛い。もう一つ辛いのが、ドラムのラシッド・アリ。エルビン・ジョーンズと比べるには、ちょっとアリには気の毒なんですが、平板なリズム&ビートが辛い。加えて、「Crescent」の冒頭、超ロングな、15分以上もあるベースソロも辛い。どうして、ここで、こんな超ベリーロングなベースソロを繰り広げなければならなかったのか。
コルトレーン本人はと言えば、1曲で30〜50分も延々と平気で吹きまくっています。でも、フリーキーでアブストラクトなブロウは、同じフレーズを繰り返しているような冗長さは免れないようで、どうにもこうにも、ちょっと退屈になります。不協和音の連続。馬の嘶きの様な、悲鳴のようなアブストラクトなブロウ。出したい音が出ないもどかしさ、苛立ち。果たして、コルトレーンはフリー・ジャズな世界に足を踏み入れる必要があったのか、踏み入れて良かったのか、と改めて考えさせられる。
クラシックには、バルトークやストラビンスキーの楽曲の様な不協和音の快感はあるんやが、これは事前に譜面に書かれた「計算された」不協和音の快感。しかし、ジャズの場合、コルトレーンの場合、事前に譜面に書かれることは無い。コルトレーンのフレーズの中で不協和音の快感はあるにはある。しかし、それは再現性の無いジャズでのこと。「不協和音の快感」の代償に「不協和音の辛さ」がてんこ盛りである。
ライブ盤なので、当時のアナウンスが入っているのですが、この中で「皆様お疲れのところとは思いますが」というフレーズがあるのですが、これって言い得て妙ですよね。確かに、このライブ盤でのコルトレーンのブロウは聴いていて「疲れる」。
でも、このライブ盤には、当時のコルトレーンが、フリーキーでアブストラクトなジャズに苦闘するコルトレーンの生の姿が記録されている。このコルトレーンの「生の姿」が良い。真のミュージシャンであるコルトレーンの生の姿を追体験できる素晴らしさが、このライブ盤に詰まっている。
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