パット・メセニーの「原点回帰」
僕がジャズ者になって、ジャズ者駆け出しの初心者の頃から、敬愛するギタリスト、パット・メセニー。現代のジャズ界を代表するエレギ奏者。アコギを弾かせても素晴らしいテクニシャン。1954年生まれなので、今年で58歳。大ベテランというか、もう大御所の類である。
彼のギターは個性的。ワンフレーズ聴いただけで、パットと判る個性は素晴らしい。特にエレギが特徴的で、彼が開発した独特のギター・シンセの音は唯一無二な響きを有する。というか、エレギのプレイヤーで、パットほど、ギター・シンセに精通し、ギター・シンセを操る者はいない。
そんなパット・メセニー、最近は「メインストリームなジャズ」に傾倒中。パット・メセニー・グループ(PMGと略す)でのフォーキーでネイチャーな響きを有する、スケールの大きいメロディアスな展開を踏襲すること無く、パット個人として、メインストリームなジャズを追求している。
そんな「メインストリーム」な成果の一枚が、今年7月にリリースした『Unity Band』(写真左)。PMGを離れて、パット個人の「コンテンポラリー・ジャズ」がここにしっかり記録されている。ちなみにパーソネルは、Pat Metheny (el-g,ac-g,g-syn,orchestrionics), Chris Potter (ts,b-cl, ss), Ben Williams (b), Antonio Sanchez (ds)。サックス奏者のクリス・ポッターの参入が目玉である。
冒頭の「New Year」を聴くと、パットの考える「コンテンポラリー・ジャズ」というものが良く理解出来る。伝統的なジャズの響きを排除して、あくまで「コンテンポラリー・ジャズ」な響きを優先させた展開。そして、滑り出てくるような覇気溢れるテナーはクリス・ポッター。
う〜ん良いなあ。マイナーなトーンでも無く、ファンキーなトーンでも無い。でも、実にジャジーなトーンは、パット・メセニーの「コンテンポラリー・ジャズ」路線の真骨頂。そこに高らかに響くテナーの音色。決して、コルトレーンをなぞるのでは無い、個性的なコンテンポラリーな響きを宿した、クリス・ポッターのテナ−。新鮮な響き。
「原点回帰」とパットは表現する。「原点回帰」とは、いかなるものか。僕はこの最新作『Unity Band』を聴いて、ECMからリリースされたパットの名盤『80/81』を思い出した。この『80/81』は、パットのメインストリーム・ジャズ宣言なアルバム。今で言う「コンテンポラリー・ジャズ」なアルバム。今から30年前。パットのメインストリームなジャズの原点。
今回の『Unity Band』は、そんな「メインストリーム・ジャズの原点」なパットを彷彿とさせる。優れたフロント・パートナーであるテナー奏者の存在も共通項。『80/81』では、かの早逝の天才テナー奏者マイケル・ブレッカーが吹きまくっていた。この『Unity Band』では、中堅テナー奏者クリス・ポッターが吹きまくる。優れたテナー奏者がフロント・パートナーである「符号の一致」。
まるで、あの『80/81』に還った様な、あのパットのメインストリーム・ジャズ宣言なアルバムの雰囲気に還った様な『Unity Band』の内容と展開。なるほど、「原点回帰」とパットが表現するのが良く理解出来る。2曲目「Roofdogs」の様に、あの『80/81』の様に、キャッチャーで印象的なフレーズを宿した楽曲が多く収録されている。
そして、7曲目「Signals」の様にフリーキーな演奏もパット個人のアルバムならではである。あの30年前の『80/81』では、フリーキーな演奏は、パットが敬愛するオーネット・コールマンのフリーキーなマナーを踏襲した。しかし、今回の『Unity Band』では、パット・オリジナルなフリーキーなマナーで、終始、押しまくる。パット独自の個性の展開。
現時点での、パットが考える「コンテンポラリー・ジャズ」が、このアルバム『Unity Band』に、ギッシリと詰まっています。アドリブ・フレーズも印象的なフレーズが多く、鑑賞するに「聴き応え」のある、実に優れた内容の「コンテンポラリー・ジャズ」です。
面白いのは、アドリブ・フレーズも印象的なフレーズが多いのですが、PMGの持ち味である「フォーキーでネイチャーな響きを有する、スケールの大きいメロディアスな展開」を極力排除して、パット個人の「コンテンポラリー・ジャズ」な展開を最優先しているところ。パット個人名義のアルバム作成に対する、パットの「矜持」を感じることが出来て、とても頼もしい限りです。
大震災から1年が過ぎた。決して忘れない。常に関与し続ける。
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