フェンダー・ローズなエバンス
1971年録音の『The Bill Evans Album』(写真左)は、ちょっと異質のアルバム。アコースティック・ピアノ専門然としているビル・エバンスがエレピ、それもフェンダー・ローズを弾いているアルバムなのだ。
僕は、このエバンスがエレピを弾いているアルバム『The Bill Evans Album』を初めて聴いたのは、学生時代、ジャズ者初心者の頃、ジャズを聴き始めて3年位経った頃だと記憶している。当時は僕も頑なというか、音楽の幅についての「許容量」が少なかったというのか、このエレピを弾くエバンスは「許せない」と思った(笑)。
1970年代初頭、時はジャズ・ロックからクロスオーバー・ジャズの走りの時代で、ジャズの世界でも電気楽器、特にエレギとエレピが横行し始めていたので、エバンスもその流行に便乗したのだ、と感じた。
しかも、このいい加減な感じのアルバム・ジャケットのエバンスの似顔絵を見ていると、なんだかこのアルバムは「いい加減」に製作されたというか、聴く者を小馬鹿にした感じというか、どうも、このアルバムは好きになれなかった。確かに、アルバム・ジャケットのデザインから来る音の印象って大事ですよね。
しばらくの間(20年位)、このアルバムの存在は完全に無視して、ビル・エバンスに関しては、アコピのみのリーダー作をせっせと蒐集していった。で、このエレピを弾くエバンスのリーダー作のみとなって、仕方なく、正式リーダー作のコンプリートを目指して、この『The Bill Evans Album』を入手した次第。
しかし、である。ジャズを聴き始めて20数年が経過した、年齢にして40歳を越えた頃というのは、ジャズの音世界についての頑なさも柔らかくなり、音楽の幅についての「許容量」も増している。エレピを弾く、フェンダー・ローズを弾くエバンスが、なかなかに良いのに気が付いた。
というか、ビル・エバンスは、エレピについても奏者として第一人者である、と思った。特に、フェンダー・ローズの扱いが抜群である。変に音をいじるのではなく、フェンダー・ローズの標準の音のみで、シンプルにかつ、電気楽器独特の、フェンダー・ローズ独特の音の伸びを上手く活かした、フレーズを弾きこなす部分と音の伸びを活かした「間」の部分のバランスが絶妙なのだ。
アルバム冒頭の「Funkallero」の前奏の部分を聴くだけでも、ビル・エバンスはエレピの、フェンダー・ローズの優れた使い手であることが良く判る。6曲目の「Re: Person I Knew」もそうだ。フェンダー・ローズの音の特性を良く理解して、音の伸びを活かした「間」の部分のフレーズの取り扱いが絶妙なのだ。
この『The Bill Evans Album』では、ビル・エバンスはアコースティック・ピアノも弾いている。既にスタイリストとしての境地に達していた彼のアコピのスタイルに、今回、エレピが加わることによって、更に、彼のアコピの表現やスタイルに、幅というか新しいバリエーションが生まれているのが面白い。
今では、この当時流行りのフェンダーローズにチャレンジした『The Bill Evans Album』は、エバンスのアルバムの中でも、僕のお気に入りの一枚になっている。とにかく、ビル・エバンスは、エレピについて、フェンダー・ローズについて、奏者として第一人者である。ビル・エバンス独特の「エレピの表現」がこの『The Bill Evans Album』に息づいている。
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