ジャズ・ロックなジェフ・ベック
1960年代、ビートルズの出現がきっかけとなって、ロックがポップ・ミュージックの筆頭に躍り出る。1970年を迎える頃には、ロックがポップ・ミュージックとして定着する。その影響でジャズは、ポップ・ミュージックとして斜陽な音楽ジャンルに転落する。
そういう状況の中、ジャズはロックの要素を取り入れ始める。電気楽器、及び、8ビートの導入である。そして、ロックの楽曲をカバーするケースも多発した。ある面、ジャズのロックに対する「迎合」という状況に陥った訳やし、ロックの要素の取り込みによって、ジャズのバリエーションが広がったという見方も出来る。
ポジティブに、ロックの要素の取り込みによって、ジャズのバリエーションが広がった結果として、ジャズ・ロックという演奏ジャンルが定着する。あくまでベースはジャズなんだが、ロックの要素を巧みに取り入れて、ジャズとして新しい響きを獲得している。いわゆる、ジャズからロックへのアプローチである。
1970年代に入って、ジャズはロックの要素を積極的に取り込んで発展する。マイルス・デイヴィスを中心としたエレクトリック・ファンクな展開や、電気楽器と8ビートの導入によるクロスオーバー・ジャズの出現。クロスオーバー・ジャズに「ソフト&メロウ」な要素など、ロックのトレンドを積極的に反映したフュージョン・ジャズ。どれもが、ジャズからロックへの積極的なアプローチであった。
しかし、逆に、ロックからジャズへのアプローチもある。こちらの方は、動機は該当するロック・ミュージシャン個々の動機によるもので、ジャズの様に、音楽ジャンルとして生き残りをかけた、共通の「決死の想い」を反映したものでは無い。しかし、1970年代、僕は「ロック小僧」。このロックからジャズへのアプローチによって、僕はジャズに触れて、ジャズを感じた。
僕が最初に、ジャズに触れて、ジャズを感じた「ロックからジャズへのアプローチ」は、Jeff Beckの『Wired』(写真)。1976年のリリース。Jeff Beck(ジェフ・ベック)とは、日本で言われる「三大ロック・ギタリスト」の一人。ギター・インストをやらせたら右に出る者はいない、超絶技巧なテクニックを携えた、完璧な「エレギ職人」である。
この『Wired』の参加ミュージシャンの面子を眺めると、このキーボード担当のヤン・ハマーとドラマーのナラダ・マイケル・ウォルデンは、ジャズ・ロックの雄、マハビシュヌ・オーケストラのメンバーとして活動していた経歴を持ち、いずれも超絶技巧なテクニックを誇る、エレクトリック・ジャズ系のミュージシャン。この二人の存在が、このこの『Wired』に、そこはかとない「ジャジーな雰囲気」を与えている。
特に、この『Wired』の持つ「ロックからジャズへのアプローチ」には、ジャズ畑のヤン・ハマーのキーボード参加が効いている。このヤン・ハマーのキーボードが、1976年当時の「クロスオーバー・ジャズ」の雰囲気をプンプンさせていて、このジェフ・ベックのアルバム全体に、ジャジーな雰囲気を振りまいているのだ。
そして、このアルバム『Wired』の収録曲の中で、ロックからジャズへのアプローチの代表例とされる楽曲が「Goodbye Pork Pie Hat(グッドバイ・ポーク・パイ・ハット)」。
チャールズ・ミンガスの思いっきりジャジーな名曲である。オフビートなジャジーな雰囲気を抑え気味に、乾いたファンクネスをインプロビゼーションの底に湛えて、主役のジェフ・ベックは骨太なエレギ・ソロを聴かせてくれる。
このアルバム『Wired』では、ジェフ・ベックの、クロスオーバー・ジャズ、若しくは、来るべきフュージョン・ジャズへの、ロックからの返礼とも言える、インスト中心の自由度の高いインプロビゼーションが堪能出来る。決してジャジーな雰囲気に浸りきらない、ロックなビートの矜持を維持した、あくまで「ロックからジャズへのアプローチ」。根はロックであり、インプロビゼーションのバリエーションとしての「ジャズの要素の取り込み」なのだ。
僕は、このジェフ・ベックの『Wired』で、ジャズを感じ、クロスオーバー・ジャズ、フュージョン・ジャズを意識した。僕に取って、記念すべきアルバムの一枚である。今でも、このアルバムは大好きだ。ジャケット・デザインは、あまりにシンプル過ぎるけど、このアルバムの内容は凄い。
このアルバムは、「ジャズからロックへのアプローチ」の成果である「ジャズ・ロック」の名盤では無く、「ロックからジャズへのアプローチ」の成果なので、「ロック・ジャズ」的な名盤とでも表現した方が良いかもしれないww。
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