ベースが前面に出過ぎると・・・
ジャズ・ベーシストのリーダー作の代表的パターンの2つ目である、ベーシストとしてその超絶技巧なテクニックを全面的に押し出したケースについて語るの2日目。今日は、レイ・ブラウン(Ray Brown)のリーダー作について語りたい。
改めて、レイ・ブラウンとは・・・。1926年10月生まれ、2002年7月に鬼籍に入る。アメリカ合衆国ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれのベース奏者、スウィング期からビバップ期に活躍、ベースのバーチュオーゾの一人として、その名をジャズの歴史に残している。
レイ・ブラウンの名を聞けば、まずはオスカー・ピーターソンとのトリオでの活躍が思い出される。確かに、ピーターソン・トリオでのレイ・ブラウンのベースは、トリオ演奏の中でバランスの良く取れた、職人芸的な味のあるテクニック豊かなベースを披露していて、さすがレイ・ブラウンと唸ってしまう至芸の数々が脳裏に浮かぶ。
しかし、レイ・ブラウンが前面に出たリーダー作はどうだろう。レイ・ブラウンのリーダー作の傑作とされるアルバムが『Something for Lester』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Ray Brown (b), Cedar Walton (p), Elvin Jones (ds)。1977年6月の録音。
1曲目の「Ojos de Rojo」の出だしから、レイ・ブラウンのアコースティック・ベース(略してアコベ)の相当な音量で迫ってくる。これって、あまりに録音バランス、悪く無いか。悪すぎる。でも、テクニックは凄い。これがアコベか、と唸ってしまうくらい、アコベで高速フレーズを弾きまくる。
この1曲目の印象が全て。このレイ・ブラウンのリーダー作は、徹頭徹尾、レイ・ブラウンのアコベが前面に押し出され、レイ・ブラウンのアコベが相当な音量でブンブンと唸りを上げ続ける。でも、テクニックは凄い。テクニックの全てを尽くして、アコベをギターの様に弾きまくる。
ドラムは、ポリリズムの野生児エルビン・ジョーンズである。さすがに、大先輩レイ・ブラウンの手前、手数を少し控えて、ちょっと温和しめにポリリズムを叩き出しているが、レイ・ブラウンがアコベの音量を上げると、それに呼応するように、エルビンも音量をあげる。かなり五月蠅い。
ピアノはシダー・ウォルトンである。このアルバムでのシダーが「絶品」なのだ。フレーズは粒立っていて瑞々しく、インプロビゼーションの展開は流れるが如く。タッチも端正で明快。このアルバムでのシダーは素晴らしい。シダー・ウォルトンのベストプレイのひとつに挙げても良いのでは、と思う位の素晴らしさ。
しかし、この素晴らしいシダー・ウォルトンのピアノが、レイ・ブラウンのブンブンベースの音にかき消され、エルビン・ジョーンズのドラムにまでかき消される。じっくり聴けば聴くほど、シダー・ウォルトンのピアノは奥へと引っ込んでいき、エルビンのドラムが控えめにバッシャバッシャと音を立て、レイ・ブラウンのベースだけがブンブンとやたら前面に出まくる。
このアルバム、ベーシスト、レイ・ブラインのリーダー作とは言え、ピアノ・トリオとして録音バランスが悪すぎる。ベーシストのその超絶技巧なテクニックを全面的に押し出して、それを思う存分聴かせる、という意図も判らないでもないが、これはバランスが悪すぎる。
ベーシストって、元来はリズム・セクションの一部。フロント楽器を支え、鼓舞する役割を担っている訳だが、このベーシストのリーダー作には、その配慮が全く欠けている。フロントのピアニストに対して、全く無視である。これはいかがなものか。
確かに、レイ・ブラウンは、自らのリーダー作や他のリーダー・セッションにおいては、共演者が格下とみるや、その格下の共演者を全く無視するかの様に、ハイテク・アコベをブンブン唸らせて前面にしゃしゃり出る傾向が強い。そう言えば、格下ピアニスト、ジュニア・マンスのリーダー作『ジュニア』での、レイ・ブラウンの傍若無人な振る舞いを思い出した。
オスカー・ピーターソンは怖い年上リーダー(一つ違いだけだけど)なので、ピーターソンの前では、レイ・ブラウンは殊勝な振る舞いを見せるが、他では全く正反対に変貌する。とにかく、ハイテク・アコベをブンブン唸らせて前面にしゃしゃり出る傾向が強い。
このアルバムは名盤の誉れ高いところもあるのだが、僕はそうは思わない。ベーシストのその超絶技巧なテクニックを全面的に押し出して、それを思う存分聴かせる、という意図も判らないでもないが、これはバランスが悪すぎる。
ベーシストのその超絶技巧なテクニックを全面的に押し出しつつも、リーダーとして自分の音世界をプロデューサーの様に創造していくという演奏全体に対する配慮もある程度は欲しいところ。その辺りのバランスが崩れると、このアルバムの様な事態に陥る。
バランスの悪いアルバムは、聴いていて楽しくない。このアルバムも、レイ・ブラウンのテクニックの凄さを確認するには格好のアルバムだが、何度も聴き直して楽しむ愛聴盤の類には全くならない。僕にとっては、とても残念なアルバムである。
大震災から1年が過ぎた。決して忘れない。常に関与し続ける。
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