夏は「欧州フリー・ジャズ」だ
先週のベーシストのリーダー作の特集はちょっとお休みして,今日は、この季節に合ったジャズ盤のお話しを・・・。
我が千葉県北西部地方の今年の夏は、今のところ涼しい。涼しいが湿度はどんどん高くなってきた。いよいよ夏到来か、という今日この頃。今日は夏に聴くのがピッタリのアルバムを一枚、ご紹介したい。
ECMというレーベルがある。ECM=Edition of Contemporary Musicの略。創立者はマンフレート・アイヒャー。演奏家としての素養と録音技術の経験を基に、自らが選んだ「今日的」な音楽を記録し、世に問うべく、自らのレーベルを1969年に立ち上げる。西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。そんな、アイヒャー自らの監修・判断による強烈な「美意識」をアルバムの数々が実に個性的なレーベルである。
このECMレーベル、1970年代の十八番に「欧州フリー・ジャズ」がある。楽器の音そのものを活かした現代音楽的な硬質な響き。クラシックの伝統を踏まえた不協和音による伝統的な展開。クールな、静かな熱気を帯びたアブストラクトなインプロビゼーション。伝統的なジャズの範疇にギリギリ根を下ろしながらも、限りなくフリーなジャズが繰り広げられる。そして、そんな静かな熱気を帯びた演奏に、ECM独特の限りなく静謐で豊かなエコーがかかる。一聴してECMの盤だと判る。
Jan Garbarek Quartet『Afric Pepperbird』(写真左)。ノルウェー出身、ヨーロピアン・ジャズにおけるベテラン・サックス奏者、Jan Garbarek(ヤン・ガルバレク)の若かりし頃のリーダー作。ちなみにパーソネルは、Jan Garbarek (ts, bs, cl, fl, per), Terje Rypdal (g), Arild Andersen (b, thumb piano, xylophone), Jon Christensen (per)。1970年9月22,23日の録音。
ヤン・ガルバレクのサックスはクール。透明感あふれる音色と美しいメロディを奏でることで知られ、演奏スタイルは耽美的で禁欲的。そんなガルバレクが、さすが、1970年の頃の録音、実にフリーキーなブロウを聴かせてくれる。フリーキーではあるが、決して熱くない。冷静にフリーキーでアブストラクトなブロウがガルバレクらしい。
このアルバム、演奏全体の雰囲気は、決して、フリー・ジャズ一辺倒では無い。おおよそ演奏の半分くらいは、伝統的なジャズの範疇に根を下ろしたモーダルな演奏。これ、かなり新しい雰囲気で、今の耳にも十分に耐える優れたもの。そして、残りの半分は、アブストラクトな演奏をベースとしたフリー・ジャズ。でも、演奏の響きは米国はNYのフリー・ジャズとは全く異なる、静かな熱気を帯びたアブストラクトなインプロビゼーション。欧州フリー・ジャズ的な響きが実に良い。
ギターのテリエ・リピダル(Terje Rypdal)も独特の音色と捻れ方で、かなり良い線のインプロビゼーションを聴かせてくれる。部分部分では、エレクトリック・マイルスのエレギの響きを踏襲していたり、プログレッシブ・ロックの判り易い捻れ方をしてみたり、伝統的なジャズの範疇でモーダルな展開をしてみせたり、大活躍である。
ECMレーベルが提供する、1970年代の十八番の「欧州フリー・ジャズ」の代表的な優秀盤です。楽器の音そのものを活かした現代音楽的な硬質な響きが、実に静謐感、清涼感溢れ、クリスタル&クール。この静かな熱気は夏にピッタリ。というか、冬にはちょっと寒すぎて、秋にはかなり寂寞感満載で、春にはちょっと狂的で、やっぱり、この「欧州フリー・ジャズ」を聴き込むのは「夏」が一番でしょう。
フリーキーでアブストラクトな演奏部分が難敵ですが、ジャズ者初心者の方々にも、フリー・ジャズに挑戦するに良いアルバムの一枚だと思います。ECMレーベルらしいアルバムでもあり、ECMレーベルの個性的な「音」を体験するにも格好の一枚です。
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