ピアノ・トリオの代表的名盤・29
ECMレーベルらしいピアノ・トリオである。現代音楽の響き、フリー・インプロビゼーション一歩手前の限りなく自由で無限に拡がりのある音世界。
特にピアノが良い。決して、古典的でクラシカルな響きは無い。決して、エンタテインメント性を追求したファンキーな響きは無い。あくまでストイックで冷徹な、緊張感溢れるクリスタルな響きとアブストラクト一歩手前、フリーキー一歩手前の限りなく自由ではあるが「秩序ある」インプロビゼーションの世界。
ベースは前面に押し出たピアノのフリーキー一歩手前の限りなく自由ではあるが「秩序ある」インプロビゼーションの世界のフレーズをシッカリと底で支えるベース。現代音楽的な展開に追従する、これまた現代音楽的な響きが個性的なベース。これはもう「ジャズ・ベース」の範疇では捉えられない、自由度の高い、限りなく現代音楽的なベース。
ドラムもあまりに個性的。限りなくアブストラクト、限りなくフリーキーではあるが、キッチリとリズム&ビートを供給して、このピアノ・トリオの演奏を「秩序ある」演奏の範疇に留める、実に重要な役割を担う、限りなく自由度の高いドラミング。これまた、現代音楽的な響きが豊かな、実に印象的な、硬質で鋼質な音が豊かなパーカッシブな世界。
そのアルバムの名は、Chick Corea『A.R.C.』(写真左)。ちなみにパーソネルは、Chick Corea (p), Dave Holland (b), Barry Altshul (ds, per)。1971年1月の録音。チックの硬質で尖った切れ味の良いピアノと、ベースのデイブ・ホランド、ドラムのバリー・アルトシュルとの緊張感漂うインプロヴィゼーションの応酬。
その最大の成果が冒頭の「Nefertitti」。ウェイン・ショーターの作。マイルス・クインテットでの決定的名演が有名。同一テーマをニュアンスを代えて展開する不思議な名演。ジャズへのアンチテーゼ。そんな構築美が絶対のウェインの名曲を、チックのピアノ・トリオは解体し、アブストラクト一歩手前、フリーキー一歩手前の限りなく自由ではあるが「秩序ある」インプロビゼーションに再構成する。
ラストの「Games」の現代音楽的な響きの素晴らしさはどうだ。息をのむほど美しい、硬質で鋼質な音が豊かな、パーカッシブなドラミングに対抗するかのように直感的に切り返し、チェンジ・オブ・ペースを織り込みながら、あくまでストイックで冷徹な、緊張感溢れるクリスタルな響きとアブストラクト一歩手前、フリーキー一歩手前の限りなく自由ではあるが「秩序ある」展開が素晴らしいピアノ。そして、限りなく現代音楽的でスペースを活かしたフレージングでフロントのピアノの支え続けるベース。
エンターテイメント性を追求した、聴いて楽しいピアノ・トリオでも無ければ、旋律の美しい、聴き易く、ピアノの音を徹底的に愛でることが出来るピアノ・トリオでも無ければ、ファンキーな響きが楽しい、黒くてダンサフルでソウルフルなピアノ・トリオでも無い。
あくまで、アーティスティック性をシビアに追求した、あくまでストイックで冷徹な、緊張感溢れるクリスタルな響きとアブストラクト一歩手前、フリーキー一歩手前の限りなく自由ではあるが「秩序ある」展開を基本とした、現代音楽的なピアノ・トリオの世界。
欧州、それも北欧出身のジャズ・レーベルであるが故の個性。総帥、マンフレート・アイヒャーの西洋クラシック音楽の伝統にしっかりと軸足を置いた「ECMの考える欧州ジャズ」。それを強調する限りなく静謐で豊かなエコーを個性とした録音。
再度言う。これぞ、ECMレーベルらしいピアノ・トリオの中の一枚。硬派なジャズ者の方々にお勧めの一枚。謹んで「ピアノ・トリオの代表的名盤」の仲間入りをさせて頂きたい。
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