夏はボサノバ・ジャズ・その11 『I Can See Forever』
ボサノバ・ジャズでテナー・サックスとくれば、十中八九、決まって、スタン・ゲッツとくる。今でも横行する、ボサノバ・ジャズをやるテナー奏者はスタン・ゲッツしかいないかのような、判で押したようなアルバム紹介。
今でも、適当なボサノバ・ジャズの記事は皆そうだなあ。一昨日も書いたが、なにも、スタン・ゲッツだけが、ボサノバ・ジャズをやるテナー奏者では無い。彼の日本デビュー以来、ちょくちょくとリーダー作を手に入れては聴き込んできた。そのテナー奏者とは、ハリー・アレン。
さて、改めて、ハリー・アレン(Harry Allen)である。1966年、ワシントン生まれ。英、独で数枚のリーダー作を発表した後、1996年『ディア・オールド・ストックホルム』で日本デビュー。スタン・ゲッツやズート・シムズといった白人テナーの流れを汲む、ストレートアヘッドなジャズ・テナー奏者の中堅。現代のソフト・テナーの代表格になりつつある。
このハリー・アレン、ボサノバ・ジャズのアルバムをかなりの数(8枚程度)出している。そんなアレンのボサノバ作品の中で、一番のお気に入りが『I Can See Forever』(写真左)。アレンの通算4枚目のボサノバ盤である。
ちなみにパーソネルは、Harry Allen (ts), Guilherme Monteiro (g), Jay Berliner (g), Ron Carter (b), Grady Tate(ds), Joe ascione (per), Sumiko Fukatsu (fl)。2002年の作品。ベースのロン・カーター、ドラムのグラディ・テイト、フルートの深津純子のメンバー選定を見れば、このアルバムは、日本人受け狙いの日本制作盤であることが推察出来る。
日本人受けを狙う日本制作盤は、受けを狙うあまり、判を押したような、安全運転な演奏、なぜか大スタンダード曲中心、金太郎飴的なハードバップな展開で、面白味に欠けるものが多かった。しかし、このアレンのボサノバ盤は、ちょっと雰囲気が違う。
アレンは常々「ボサノバ・ジャズのアプローチは無限」と言い放っているだけあって、収録されたどの曲もアレンジ、展開共に良く考え、良く吟味されたもの。凡百なアレンジに終始する、お決まりなボサノバ・ジャズ盤とは一線を画する、なかなか味のあるボサノバ・ジャズなアルバムに仕上がっている。
テナーでボサノバをやれば、一つ間違えば、ちょっと下品で俗っぽいムード音楽風になってしまう危険性があるんだが、アレンのテナーは違う。シッカリとしたブロウで、格調高い正統派ジャズ・テナーを持って、ボサノバの名曲を聴かせてくれる。
全編に渡ってアレンジが良い。フルートや2ギターの絡み合いがなかなか新鮮で、どの曲もなかなかに聴かせてくれる。アレンのテナーもテクニック、歌心共に優秀で実に端正なもの。あまりに端正で優等生すぎるので「面白くない」とするむきもあるが、それは言い過ぎだろう。これだけ端正に歌心を込めながら、スムーズにボサノバのフレーズを吹き上げていく、その実力は相当なもの。
夏はボサノバ。このアレンの『I Can See Forever』を聴き込めば、本当に「夏はボサノバ」やなあ〜、って心から思います。ジャケット・デザインも秀逸。このジャケ写、実に可愛くて、実に味がある。素晴らしいデザインである。ジャケ買いOKである(笑)。
蒸し暑い日本の夏にも「夏はボサノバ」。最近、歳を取ってきて、つくづく思うんですが、ボサノバ・ジャズ無くして、夏を乗り切ることは出来ません。
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