ハイレゾ音源の『戦慄の王女』
70年代ロックの数々の名盤というアルバムについて、「これが本当の音」で聴いたことが無かった。
70年代ロックをほぼリアルタイムで体験出来たことは素晴らしい経験だったのだが、中学生〜高校生の時代が中心だったので、ステレオという再生装置についても、かなりチープな装置だったし、LPを繰り返し聴くと傷が入ったり、摩耗したりするので、当時はLPを買うと、先ずはカセットテープにダビングして、LPの内容については、基本的にこのカセット・テープの音が中心になる。これでは良い音で聴くことが出来るはずが無い。
加えて、日本盤は基本的に音が悪い。LPの盤質も質を落としたものが多く、英国のオリジナル盤と比べると、盤の厚みが明らかに違う。日本盤の方が「薄い」のだ。LPは厚みがあるほど高音質になる。薄いということは音質が低下するということ。これでは良い音できくことが出来るはずが無い。
つまりは、所有するステレオ装置の問題とLPとして入手する音源の盤質の問題が相まって、今から思うと「何だかなあ」というかなりチープな音で、70年代ロックの数々の名盤を聴いていたことになる。
さて、1980年代に入って、CDの時代になったのだが、これが困ったことに、LP時代に比べて音質が低下した。可聴周波数帯の問題、デジタル録音やマスタリング、リマスタリング等の技術的な問題、再生装置側の物理的な問題等が絡み合って、明らかにLP時代より音が落ちた。しかし、70年代ロックの数々のLP名盤の「これが本当の音」を知らないので、CDはLPより音質が低いなんて間奏は、なんだか迫力の無い感じ方だったと思う。
2000年を迎え、世の中は21世紀に入った。デジタル録音やマスタリング、リマスタリングの技術的な問題は相当改善された。歳をとってそれなりに実入りも増えたので、自らの所有する再生装置についても、それなりの音質の再生装置を所有することとなる。この2〜3年の評価としては、CDの音質はLPと同等になった、と言われる。しかし、やはりどこかが違う。LPの方が、アナログ音源の方が音質が良いと感じるのだ。デジタルはアナログを超えることは無いのか、と思い出した。
そこで、ハイレゾ音源の登場である。この2〜3年の出来事であるが、CDの音質を超える24bit/96kHzなどといったハイ・レゾリューションな音源が世の中に出回るようになってきた。
録音マイクがかろうじて捉えることができるアーティストの息づかいや、録音スタジオの空気感など非常に細かなレベルの情報が、CDフォーマットの制限である、16bit/44.1kHzへダウンミックスによってカットされること無く、体験できるようになった。理論上、耳に聴こえない周波数帯の音が、音楽を聴く、という上で、そんな影響するのか、と思われる向きもあるが、これがあるのだ。聴いてみれば判る。
そのことが如実に判るアルバム例が、Queenの『Queen I(戦慄の王女)』(写真)。かの伝説のロックバンド、クイーンの記念すべきファースト・アルバムである。このファースト・アルバムについては、70年代、日本盤LPを入手して以来、音の分離が悪いのと、ダイナミックレンジが狭いのとで、どうも、アルバムに収録されている演奏に徹底的にのめり込めない。
というか、音の悪さが原因で、ジョン・ディーコンのベース・ラインや演奏テクニックが良く判らず、ブライアン・メイの独特のファズがかかったエレギの音の分離が悪くて、ブライアン・メイ独特のフレーズが楽しめない。ロジャー・テイラーのドラミングの切れ味が悪くて、リズム&ビートが団子状態、フレディ・マーキュリーのボーカルは深みと奥行きが無く「ペラペラ」という、ある意味、悲惨な音質だった。
この悲惨な音質がCDになっても、なかなか改善されない。リマスタリングの技術が進歩しても、あと一歩の感じがぬぐえない。薄い紗がかかった状態とでも表現したら良いのか。最後の最後の部分がクリアにならない。やっぱりこのアルバムは、もともとマスターテープ自体に問題があったのか、と殆ど諦めていた。
しかし、昨年、USBで提供されたハイレゾ音源の『Queen I(戦慄の王女)』を聴いて、あらビックリ。最後の最後の部分がクリアになって、最新のリマスターCDの音質をあっさり抜き去って、もうこのハイレゾ音源無しに、このアルバムは聴けない(笑)。
このハイレゾ音源によって、ジョン・ディーコンのベース・ラインや演奏テクニックの素晴らしさや、独特のファズがかかったブライアン・メイ独特のフレーズが手に取るように判り、ロジャー・テイラーのドラミングの切れ味鋭く、フレディ・マーキュリーのボーカルは深みと奥行きを増して、実力通りの素晴らしいボーカルを聴くことが出来る。
このハイレゾ音源の威力は凄まじいものがある。このハイレゾ音源の音が、このアルバムの「本当の音」にかなり近いのでは無いか、と感じている。やっと「本当の音」に出会った様な気がしている。
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