エンリコ・ピエラヌンツィの最新作
僕にとって、イタリアン・ジャズと言えば、なにはともあれ、Enrico Pieranunzi (エンリコ・ピエラヌンツィ)。遠く昔、30年以上前の学生時代、僕がまだまだ「ジャズ者初心者」だった頃からの付き合いである。
改めて、Enrico Pieranunzi (エンリコ・ピエラヌンツィ)である。1949年12月、イタリアはローマ生まれなので、今年の12月で63歳になる。もう、ジャズ界の中でも、大ベテランの類である。1975年、26歳で最初のリーダー作を発表しているので、ジャズ界の中では、やや「遅咲き」。
彼のピアノは流麗かつ端正。音の重ね方、組合せ方を聴けば、ビル・エバンスに大きく影響を受けた、所謂「エバンス派」であることは間違い無い。しかし、ビル・エバンスのピアノに比べて、ダイナミックでタッチが強い。加えて、ペダルの使い方と録音時の程良いエコー処理と相まって、音の響きが豊か。しかし、基本的には、忠実なビル・エバンスのフォロワーである。
ピエラヌンツィはイタリア人なので、白人であるビル・エバンスと同様、黒いファンクネスが漂うことはほとんど無い。フレーズ的にも、ブルーノートは当然配しているのだが、決してファンキーにならず、音が粘らないのが面白い。硬質なタッチと正確無比な速いパッセージは、まるでチック・コリアのよう。
ピエラヌンツィは欧州ジャズ・ピアノの王道を行くスタイルであり、特に、ハードバップのスタイルを踏襲しており、速い演奏も、ユッタリとしたバラード演奏も、欧州ジャズ・ピアノ独特のクラシックに根ざした、端正で調性のとれたインプロビゼーションと確かなテクニックでの弾き回しが見事である。
そんなピエラヌンツィが最近リリースした最新作(2012年3月発売)が『Permutation』(写真左)。2009年11月、独での録音になる。ちなみにパーソネルは、Enrico Pieranunzi (p), Scott Colley (b), Antonio Sanchez (ds)。若き(とはいっても40歳代だが・・・)、ベーシスト、ドラマーに恵まれてのトリオ作品である。
いや〜、とても良いピアノ・トリオ演奏ですね〜。ここでのピエラヌンツィは、忠実なビル・エバンスのフォロワーとして、コード、モード双方を織り交ぜて、実に耽美的な、そして、アグレッシブで豊かな響きのインプロビゼーションを聴かせてくれます。
全9曲がピエラヌンツィのオリジナルというところも話題性十分。この全9曲、ピエラヌンツィのオリジナルがなかなかの内容で、しっかりと、じっくりと、ピエラヌンツィのピアノを心ゆくまで堪能できます。
ジャズメンの手になるオリジナル曲は、ややもすれば、手先のテクニックに走って、曲の「歌心」を蔑ろにしがちなのですが、ここでのピエラヌンツィのオリジナルは、そんな危惧は全く無い。聴き応え十分、聴き心地の良い、豊かで耽美的なフレーズが「てんこ盛り」。
バックのコリーのベースもブンブン胴がなる、これぞジャズ・ベースってな感じの演奏が魅力的ですし、ピエラヌンツィの、クラシックに根ざした、端正で調性のとれたインプロビゼーションは、ややもすれば連続して聴いていると「飽き」が来る危険性を孕んでいるのですが、そこは、サンチェスの縦横無尽、変幻自在なドラミングが、演奏全体に程良い「チェンジ・オブ・ペース」を施していて、これがまあ「職人芸」の極みなんですね。
そんな優秀なパートナーにも恵まれて、ピエラヌンツィのピアノは、ビル・エバンスのその源を発しつつ、チック・コリアやミシェル・ペトルチアーニの要素を上手く取り混ぜながら、ジャズ・ピアノ・トリオとして、ど真ん中の王道を行くスタイルの演奏を十二分に聴かせてくれます。
良いアルバムです。ピエラヌンツィのオリジナルは聴き応え十分。聴き心地の良い、豊かで耽美的なフレーズが「てんこ盛り」で、ジャズ初心者に向けてもお勧めの一枚。当然、ジャズ者ベテランの方々には必須のアイテムでしょう。
しかし、ピエラヌンツィっていうピアニストは、本当に流麗で美しい音を出すよな〜。欧州ジャズ・ピアノの代表的存在と言われる所以ですね。
大震災から1年。決して忘れない。常に関与し続ける。
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