MJQの実験的でアートなアルバム
The Modern Jazz Quartet(以下MJQと略す)は、ジャズをアートと見立て、アーティステックかつ実験的なアルバムをリリースしている。しかし、我が国では、そのアーティスティックかつ実験的なアルバムの多くは、MJQを紹介する際の「推薦盤」として名前が挙がることは殆ど無い。
もともとMJQのグループ・コンセプトである、ジャズをアートと見立て、アーティステックかつ実験的なアプローチを実践する、というところが、我が国のジャズ者の方々、特に、評論家の方々に受けが悪い。受けが悪いというか、極端な評論としては「これはジャズでは無い」と言い切ってしまうものもあって、ちょっと困惑してしまう。
ジャズをアートと見立て、アーティステックかつ実験的なアルバム群に、MJQの大きな本質の一つを感じる事が出来るのだから、MJQというグループを正しく理解するのであれば、好む好まざるに関わらず、このアーティステックかつ実験的なアルバム群に耳を傾ける事は必須だろう。
ということで、なかなか日本では紹介されないMJQの実験的なアルバムをご紹介したい。まずは『The Comedy』(写真)。イタリアの古典喜劇に影響されて、対位法やフーガ等、クラシックの手法を取り入れ、独創的でクラシカルなジャズ・インプロヴィゼーションにチャレンジした1964年の意欲作である。
この「タリアの古典喜劇に影響されて」の部分は、具体的に言うと、このアルバムの全7曲が、すべて「コメディア・デラルテ」に関連しているのだ。
で、この「コメディア・デラルテ」って何だ、ってことなんだが、Wikipediaを紐解くと「コンメディア・デッラルテ(Commedia dell'arte)は、仮面を使用する即興演劇の一形態。16世紀中頃にイタリア北部で生まれ、主に16世紀頃から18世紀頃にかけてヨーロッパで流行し、現在もなお各地で上演され続けている」とある。なるほど。
アルバムの収録曲を並べてみると、その「コメディア・デラルテ」との関連が良く判る。
1. スパニッシュ・ステップス(Spanish Steps)
2. コロンビーヌ(Columbine)
3. プルチネルラ(Pulcinella)
4. ピエロ(Pierrot)
5. ラ・カントリチェ(La Cantrice)
6. ハレルキン(Harlequin)
7. ピアッツァ・ナヴォーナ(Piazza Navona)
第1曲の「スパニッシュ・ステップス」と第7曲の「ピアッツァ・ナヴォーナ」は、「コメディア・デラルテ」が演じられた場所のこと。2曲目〜6曲目は「コメディア・デラルテ」の登場人物を表している。つまり、2曲目の「コロンビーナ」はインナモラータに仕える女の召使い。3曲目の「プルチネルラ」は猫背のだまされやすい男。4曲目の「ピエロ」は「コメディア・デラルテ」では「ペドロリーノ」よばれる道化役。5曲目「ラ・カントリチェ」は女性歌手。6曲目「ハレルキン」は道化役。
なるほど、ここまで調べてみると、この『The Comedy』というアルバムは、実にアカデミックであり、実に実験的なアルバムであることが判る。僕も、調べてまとめてみて、改めて感心した次第。「コメディア・デラルテ」と関連付けて、加えて、対位法やフーガ等、クラシックの手法を取り入れつつ、ジャズ演奏へのアレンジを施し、ジャズのアルバムとして成立させるジョン・ルイスのアレンジの手腕は目を見張るものがある。
そして、そんな独創的でクラシカルなアレンジを、高度なテクニックをもって、ジャズ・インプロビゼーションとして実現するMJQのメンバーの演奏家としての力量足るや、これまた目を見張るものがある。
確かに、このアルバムは、ジャズをアートと見立て、アーティステックかつ実験的なアルバムである。そして、このアプローチこそが、MJQのグループ・コンセプトの根幹をなすものである。このほとんど取り上げられないマイナーな、MJQのアーティステックかつ実験的なアルバムを避けていては、MJQの本質を真に理解したとは言えないだろう。
ジャズのアレンジに興味のある「ジャズ者」の方は、一度は、このアルバムに耳を傾けて欲しい。実に個性的なアレンジ・アプローチで、そういう点では、このアルバムはなかなかに楽しめます。ちょっとアルバム全体の収録時間が短いのが「玉に瑕」ですけど・・・。
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