ロリンズがフリーに近づいた瞬間
RCA時代のロリンズは、積極的に可能性に挑戦していた。当時、最先端のトレンドを取り入れ、憧れのベテランとコラボしたり、ジュークボックスをターゲットに、短時間の録音に付き合ったり・・・。しかし、どれもロリンズ自体は申し分無い。しかし、諸手を挙げての「五つ星」という感じでは無い。やや難ありの「四つ星」の線なのだ。これがなかなか悩ましい。
RCA時代のロリンズのリーダー作に『Our Man In Jazz』(写真左)というアルバムがある。1962年7月27〜30日の録音。ちなみに、パーソネルは、Don Cherry (cor), Sonny Rollins (ts), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds)。
Don Cherry(ドン・チェリー)の名前が目を惹く。ドン・チェリーは、オーネット・コールマンに師事したトランペッター。つまりは、アバンギャルド・ジャズ初期の担い手の一人。つまり、この『Our Man In Jazz』は「ロリンズがフリー・ジャズに一番近づいた日」を捉えたアルバムである。
実はこのアルバムの演奏を聴く度に「フリー・ジャズ」って、詰まるところ、いったい何なんだ、とおもってしまう。このアルバムの演奏は「フリー・ジャズ」なのか。イエスと答える人もいる、ノーと答える人もいる。たしかに「フリー・ジャズ」と「モーダル・ジャズ」との境界線はかなり曖昧である。
ちょっと難しい話になって恐縮だが、ジャズの即興演奏は一定のコード理論などの規則に従って演奏される。つまり「即興演奏」とは「フリー・ジャズ」を指す言葉では無い。では「フリー・ジャズ」とは如何なるものか。
「フリー・インプロヴィゼーション」という言葉がある。「自由即興」と訳されるが、これは「まったく決めごとを作らずに自由に演奏すること」である。が、ジャズのフリー・インプロビゼーションの大方において、必要最低限の決めごとがある場合が多い。
最低限、リズム・セクションから与えられたリズム&ビートに乗る訳だし、演奏の展開の道筋と終わり方については決めておかないと演奏が完結しない。有り体に言えば、そうでなければ単なる「楽器の音の垂れ流し」であり、つまりは「音楽」として成立しない。
「調性」と言葉がある。メロディーや和音が、中心音と関連付けられながら、音楽として構成される場合、その音楽は「調性」があるという。逆に、調性のない音楽のことを「無調音楽」という。一般的にジャズは「調性音楽」であり、旋律を意識しながら自由に吹くフリー・インプロビゼーションは「調性音楽」であり、調性という決めごとに従っており、「自由即興」とは言えない。
「フリー・ジャズ=フリー・インプロビゼーション(自由即興)」と定義するなら、純粋に「フリー・ジャズ」に該当する演奏は数が限りなく少ない。ジャズの演奏(クラシックもそうだが)において「まったく決めごとを作らずに自由に演奏すること」は実に難しい。つまりは「フリー・ジャズ」という演奏形態はイメージであって、具体的にはアバンギャルトなジャズ演奏、「アバンギャルド・ジャズ=フリー・ジャズ」とすると据わりが良いと僕は思っている。
そう観点で聴くと、この『Our Man In Jazz』は、アバンギャルドなジャズがぎっしりと詰まっており、「アバンギャルド・ジャズ=フリー・ジャズ」とすると、この『Our Man In Jazz』は、フリー・ジャズな演奏と言える訳で、このアルバムは「ロリンズがフリー・ジャズに一番近づいた日」を捉えたアルバムと言える。
そういう意味でこのアルバムに耳を傾けると、さすがロリンズである。ロリンズの高度なテクニックとテナー演奏に関する才能で、しっかりと「フリー・ジャズ」を実現している。これだけ悠々とアバンギャルド・ジャズを表現するロリンズは実に「立派」である。アバンギャルド・ジャズ初期の担い手の一人、ドン・チェリーのコルネットと比べて、全くひけを取らないアバンギャルドな演奏である。
しかし、である。アバンギャルド・ジャズにも悠々と対応するロリンズではあるが、アバンギャルドなロリンズはつまらない。高度なテクニックとテナー演奏に関する才能には感嘆するんですが、ロリンズのテナーの本質を鑑みると、やっぱり、ロリンズにアバンギャルド・ジャズは似合わない。
つまり、この『Our Man In Jazz』も、諸手を挙げての「五つ星」という感じでは無い。やや難ありの「四つ星」の線なのだ。これがなかなか悩ましい。
大震災から1年。決して忘れない。常に関与し続ける。
がんばろう東北、がんばろう関東。自分の出来ることから復興に協力しよう。
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