マントラの個性が確立された傑作
40歳を過ぎるまで、ビッグバンド・ジャズとジャズ・ボーカルは意識的に避けてきた。最近、50歳を過ぎて、感性の許容量に余裕が出てきたところで、ビッグバンド・ジャズトジャズ・ボーカルにチャレンジしている。あの世に行く前には、いっぱしの「うんちく」を垂れるようにはなりたいものだ。
さて、そのジャズ・ボーカル、歌詞が判らんと意味が無い、と避けてきたが、インターネットが発達して、インターネットを活用して様々な情報が即座に入手出来る様になった。ジャズ・スタンダードの歌詞も和訳付きで手に入る。インターネットを活用したら、ジャズ・ボーカルで歌われる歌詞も何が歌われているのか、なんとか判るようになった。
ジャズ・ボーカルにチャレンジするに当たり、意識的に避けてきたとは言え、お気に入りとして親しんできた、数少ないボーカル・アルバムがある。その辺のおさらいから始めている。その「おさらい」の対象の一つが「Manhattan Transfer(マンハッタン・トランスファー)」。略して「マントラ」。
「マントラ」は、男女各2人による4人編成。1978年マッセーに代わりシェリル・ベンティーンが正式加入して現在のメンバー構成となる。ちなみにメンバー構成は、ティム・ハウザー(グループの創設者でありリーダー)、アラン・ポール、ジャニス・シーゲル、シェリル・ベンティーン。グループ名は、ジョン・ドス・パソスの小説「マンハッタン乗換駅(Manhattan Transfer)」から取ったとのこと。
僕にとって、ジャズ・ボーカルもので最初にヘビロテになったアルバムが、1979年リリースの5th.アルバム『Extensions』。このアルバムについては、2011年6月28日のブログ(左をクリック)に詳しいので、一度ご参照願いたい。正統派ジャズ・ボーカル・グループのマントラとしては異質と言えば異質。コンテンポラリーなジャズをバックに、というよりは、完璧な「フュージョン・ジャズ」をバックにしたエレクトリックなジャズ・コーラス。しかし、これが「受けた」。ヒットアルバムになった。
そして、1981年、その次の作品としてリリースされた6th.アルバムが『Mecca for Moderns』(写真)。前作の路線を踏襲し、引き続きJay Graydonの製作。前作の、完璧な「フュージョン・ジャズ」をバックにした、エレクトリックなジャズ・コーラスに磨きをかけたというか、完璧な「フュージョン・ジャズ」をバックにしたエレクトリックなジャズ・コーラスに、トラディショナルなジャズ・コーラスの要素を上手い具合にブレンドさせて、マントラのグループとしての個性を確立させている。
このアルバムでは、前作でそこはかとなく漂っていた違和感、バックの完璧な「フュージョン・ジャズ」とマントラが根底に持つトラディショナルなジャズの要素が微妙に噛み合わない「違和感」が完全に払拭されている。前作での「違和感」は、プロデューサーのJay Graydonの「宿題」であった。この「宿題」をJay Graydonとマントラは完全に払拭している。
全編、コンテンポラリーでフュージョンなジャズ・ボーカルで、聴いていて惚れ惚れする。疾走感、爽快感が趣味良く漂い、ボーカル&コーラスは、トラディショナルな雰囲気漂う正統なもの。とにかく、マントラは上手い。その上手さ故、トラディショナルなアレンジに乗せると、従来のジャズ・ボーカルの路線に埋もれてしまって、ポップ性、ヒット性が損なわれてしまうのだが、その「懸念」をバックの完璧な「フュージョン・ジャズ」なアレンジが払拭する。
Jay Graydonのプロデュースとアレンジワークの勝利だろう。マントラの持つ、ポップなイメージ、トラディショナルなジャズのエッセンス、本来マントラが持つ華麗なコーラスワークとボーカル・テクニック、これらが見事にミックスされて、マントラの個性として確立されている。
今や「Boy from New York City」はすっかり、コンテンポラリーなジャズ・スタンダード曲として定着し、ラストの「A Nightingale Sang In Berkeley Square」のアカペラ・コーラスは、今でも鳥肌ものだ。この2曲が、完璧な「フュージョン・ジャズ」をバックにしたエレクトリックなジャズ・コーラスに、トラディショナルなジャズ・コーラスの要素を上手い具合にブレンドさせて確立した「このアルバムの個性」を代表している。
この6th.アルバム『Mecca for Moderns』は、マントラの傑作のひとつとして、今でも僕は愛聴している。
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