ピアノ・トリオの代表的名盤・25 『The Oscar Peterson Trio In Tokyo 1964』
大震災で壊滅した書庫を片付けていて再発見された、大木俊之助さんの著書『ジャズ・ジョイフル・ストリート―神田神保町「響」流ジャズ鑑賞法』を読み直していて、あれっと思った。
『The Oscar Peterson Trio In Tokyo 1964』(LP盤)に関するのコメントに、この1964年の東京のコンサートでは、かの名曲「Hymn To Freedom」が演奏され、このライブ盤LPに収録されている、とあった。
あれっ、と思った。この『The Oscar Peterson Trio In Tokyo 1964』は、かつて日本のみで発売されたLPが故に、なかなか再発されなかったピーターソンのレア音源で、昔から欲しい欲しいと思っていたのだが、実は、ある日突然、2008年12月に『The Complete Tokyo Concert 1964』のタイトルで、CD2枚組仕立てでリイシューされた。
当然、即ゲットである。ということで、オスカー・ピーターソンの1964年の東京のコンサート音源は手元にある。で、「Hymn To Freedom」が収録されていることはすっかり忘れてしまっていて、ここ半年位、このライブ盤CD2枚組がCDプレイヤーのトレイに載ることがなかった。で、大木さんのエッセイでのコメントである。しまった、「Hymn To Freedom」の存在を失念していた(汗)。
ということで、この『The Complete Tokyo Concert 1964』(写真左)をしっかりと聴き直して、これまたビックリ。素晴らしい内容のライブ盤なのだ、これが。もう一度聴き終えて、あまりの内容の良さに、口があんぐり開いたような気分。冒頭の「Reunion Blues 」から、ラストの「Children's Tune」まで、全24曲、所要時間150分。素晴らしい内容のピアノ・トリオ演奏が展開される。
しかし、気を付けなければならないのは、CD2の6曲目以降のボーナス・トラック。こちらは1965年5月29日、チボリガーデンにおけるライブ盤『Eloquence』の全10曲のうち7曲を追加収録している。「枯葉」「モーニン」「ミスティ」などのヒット曲がズラリではあるが、1964年の東京でのコンサートとは関係が無い。東京のコンサートは、CD2の5曲目「Hymn To Freedom」まで。
さて、『The Complete Tokyo Concert 1964』のタイトル通り、東京でのコンサートに戻る。1964年6月2日、東京のサンケイホールでの収録になる。ちなみにパーソネルは、Oscar Peterson (p), Ray Brown (b), Ed Thigpen (ds)。「ザ・トリオ」と呼ばれるオスカー・ピーターソンのピアノ・トリオの中で、最強のメンバー構成である。そして、「ザ・トリオ」として最初で最後の来日公演である。
この東京での演奏は、通常のエンタテインメント的な要素を盛り込んだ、他のライブとはちょっと雰囲気が違う。東京のコンサートの聴衆の拍手など、聴衆のトリオ演奏に対する姿勢がCDより感じ取れるだが、東京の聴衆は、オスカー・ピーターソン・トリオの演奏を「エンターテインメント」として聴くのでは無く、「アート(芸術)」として聴いているのだ。
オスカー・ピーターソン・トリオのパフォーマンスを「芸術」として聴き込もうとする東京の聴衆に対して、演奏する側であるオスカー・ピーターソン・トリオの面々は真摯に相対し、最高のテクニックと最高のパフォーマンスを駆使して、最高の演奏を披露している。
つまり、東京の演奏は、CD2の6曲目以降のチボリガーデンのライブ演奏に比べて、相当に「アーティスティック」な演奏なのだ。このCDの音は平板でちょっと問題ではあるが、そんなことは関係無いほど、アーティステックなトリオ演奏が凄い。
この東京コンサート部分のラストの「Hymn To Freedom」は当然の如く、ダイナミックで感動の名演。その場に居合わせたかったなあ、とは思うが、1964年だとまだ幼稚園なので無理ですね。でも、一度、この「Hymn To Freedom」の生演奏を聴いてみたかった。ピーターソンの最高傑作である。
僕は、このアーティスティックなトリオ演奏の素晴らしさと「Hymn To Freedom」の感動的名演を踏まえて、謹んで、この『The Complete Tokyo Concert 1964』を、ピアノ・トリオの代表的名盤の一枚に挙げたい。
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