抑制が効いた翳りのあるロリンズ
ソニー・ロリンズのリバーサイド・レーベルの最後の吹き込みになる『Freedom Suite』(写真左)。1958年2月と3月の録音。ちなみにパーソネルは、Sonny Rollins (ts), Oscar Pettiford (b), Max Roach (ds)。ロリンズお好みのピアノレス・トリオでの録音である。
邦題で『自由組曲』と名付けられたアルバム。このアルバムの目玉は、まずは冒頭を飾るこの「Freedom Suite(自由組曲)」だろう。プロデューサーのOrrin Keepnewsに薦められて書いたという「自由宣言」。1950年代前半から始まった公民権運動に呼応するかのような、「黒人の自由」への強い想いをこめた異色の組曲である。
パート毎にテンポ・チェンジを繰り返す、四つのテーマによる組曲風な構成となっている。LP時代、LPレコードの片面だけを組曲1曲だけで占める構成は、当時のジャズ界においてもかなり珍しい試みだったといえる。この「Freedom Suite(自由組曲)」は、1956年3月の録音だから、ロリンズは、かなり早くから公民権運動に呼応した音楽的メッセージを世に問うたことになる。ロリンズ自身、この「Freedom Suite」の先取性については、インタビューなどでも認めている。
この冒頭の約20分に渡る「自由」への主張は、少し物憂げなロリンズのソロが特徴的。ロリンズのブロウは豪放磊落、天衣無縫、天真爛漫、自由闊達などと形容されるべきものだが、この「Freedom Suite」では、破綻を嫌うように抑制を効かせた、少し、翳りのあるブロウが特徴。こんなに翳りのあるロリンズは珍しい。
「Freedom Suite」に続く5曲は、スタンダード曲を中心とした小唄のような演奏が続くが、天真爛漫さを封印した、抑制された翳りのあるブロウは変わりない。加えて、ハードバップが成熟期を迎えつつあり、モード演奏の兆しも見え始めた1958年の録音にしては、このピアノレス・トリオについては、ビ・バップからの職人ミュージシャンであるベースのペティフォード、ドラムのローチという組合せからか、インプロビゼーションの自由度は低い。
抑制が効いた翳りのあるロリンズ。これを「渋み」と感じるか、「暗さ」と感じるかで、このアルバムの評価は変わるだろう。僕は、このアルバムの雰囲気に「暗さ」と「閉塞感」を感じるので、聴き終えた後、何か物足りなさが残るのが正直な感想である。
ちなみに翌年1959年の3月より1962年の1月まで、ロリンズはジャズ界を離れ、隠遁生活に入る。なんだか、その「雲隠れ」を暗示するような「暗さ」と「閉塞感」を僕はこの『Freedom Suite』というアルバムの演奏全体に感じる。そして、この「Freedom Suite(自由組曲)」以降、ロリンズは、公民権運動に呼応する「黒人の自由」への強い想いをこめた音楽的メッセージを一切封印する。
ロリンズの歴史の中でも、かなりの異色作であることは間違い無い。このアルバムの抑制が効いた翳りのあるロリンズを体験することは、ロリンズの「裏の側面」を体験できるので、ロリンズのファンにとっては必須とは思うが、一般のジャズ者、ジャズ者初心者の方々にはどうでしょうか。
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