チェットのペットを満喫する
涼しくなった。これだけ涼しくなると、ハードなジャズも、熱気溢れるジャズも、アブストラクトなジャズも、どんなジャズでもヒヤリングOKである。聴きたいアルバムの選択の幅が拡がって、ヒヤリング対象のアルバムを選ぶだけでも楽しい。
涼しくなって、ボーカルを聴く意欲が戻って来た。基本的には女性ボーカルが中心。理由は「和むから」。男性ボーカルは人を選ぶ。一番はフランク・シナトラ。そして、40歳過ぎてから自分の傾向に気が付いたのだが、どうもチェット・ベーガーが意外と好みらしい。
チェット・ベーガーは、ウエストコースト・ジャズの代表的トランペット奏者。トランペット奏者なのだが、希有のボーカリストでもある。中性的でアンニュイな唄声が特徴。これが、なかなかに良い。一度はまると癖になる。というか、僕の場合、既に癖になっている。
そんなチェットのボーカル盤のご紹介は後日に譲るとして、今日は、このチェットのトランペットを満喫できる盤をご紹介したい。そのアルバム名は『Chet Baker In New York』(写真左)。西海岸のパシフィックレーベルから、東海岸のリバーサイドレーベルに移籍した二作目となる。
ニューヨークでの1958年9月の録音。ちなみにパーソネルは、Chet Baker (tp), Johnny Griffin (ts -1,3,5), Al Haig (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)。収録曲は以下の通り。
1. Fair Weather
2. Polka Dots & Moonbeams
3. Hotel 49
4. Solar
5. Blue Thoughts
6. When Lights Are Low
7. Soft Wind (Bonus Track)
1、3、5がジョニー・グリフィンとチェットがフロントのクインテット構成、その他がチェットとワンホーン・カルテット構成となる。ジョニー・グリフィンは、当時、リバーサイド・レーベルの看板テナー奏者。リズム・セクションは、黒人のベーシストのポール・チェンバース、ドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズ。このベースとドラムの二人は、マイルス楽団の精鋭。
これではさぞかし、熱気溢れるエネルギッシュな東海岸ジャズ的な雰囲気になる、と思われるが、リズム・セクションの要、ピアノが白人のアル・ヘイグを採用しているところがユニーク。ここで、アル・ヘイグかあ。ビ・バップからの名手ではあるが、白人的なクールな響きが個性。このクールなピアノがチェットのリリカルでオープンなトランペットにピッタリと合っている。
ベースとドラムが、東海岸ジャズ特有のハードさを供給するが、アル・ヘイグのクールさがそのハードさを緩和する。そして、東海岸ジャズ特有のエネルギッシュなグリフィンのテナーに相対して、リリカルでシンプルなチェットのトランペットがそのエネルギッシュさをやんわりと受け止める。
なかなか含蓄があって、音的に「奥行き」のあるハードバップな純ジャズ盤となっている。チェットのトランペットは超絶技巧なものでは無く、テクニック的には普通。決して「大向こうを張る」、ダイナミックなトランペットでは無いが、シンプルな音の捌きとストレートな音の響きは、なかなか東海岸に無い個性で、これはこれで「イケる」。
ピアノのアル・ヘイグが要。ヘイグのピアノのお陰で、チェットの西海岸的なトランペットの響きがしっかり残って、このアルバムは、東海岸ジャズと西海岸ジャズの邂逅的な、なかなかに個性溢れるハードバップな演奏となっている。
決してチェットのトランペットは超絶技巧なものでは無いし、様々な味わいを宿した、変幻自在なトランペットでも無い。リリカルでストレート。西海岸ジャズならではのトランペット。それが東海岸ジャズを出会う。東海岸ジャズのハードさにやられそうなところを、アル・ヘイグのピアノが支援し、東海岸ジャズと西海岸ジャズの良い意味での融合を実現している。
聴き応えのあるアルバムだと思います。たまには、こんな不思議な個性を持ったハードバップ・ジャズも良いものです。
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