山中千尋の初リーダー作
山中千尋の新作はとても良い。彼女のコンポーザー&アレンジャーの才能全開で、聴いていて、とても楽しい。ジャズにおける新スタンダードと言う議論がなされて久しいが、その回答の一つと捉えて良いのではないか。とにかく痛快な内容だ。いま、ヘビー・ローテで聴き込み中。しっかり聴き込んで、近いうちにこのブログで語ってみたい。
ここで今一度、山中千尋のデビュー作を振り返ってみたい。デビュー作にこそ、そのミュージシャンの個性が露わに反映される、と思っているが、山中千尋の場合、どうだったんだろう。我がバーチャル音楽喫茶『松和』の「ジャズ・フュージョン館」、2002年4月の「ジャズの小径」の原稿を読み直してみた。
以下、2002年4月の「ジャズの小径」でご紹介した、2001年10月リリースの山中千尋の初リーダー作『Living Without Friday』の感想文である。
山中千尋の初リーダー作『Living Without Friday』(写真左)は、実に心地よく、ガッツのあるアルバムを見つけた、という感じがする、久々のバーチャル喫茶「松和」の新作推薦盤だ。
山中千尋。NYで活躍する若手ジャズピアニスト。何が素晴らしいのか。まずは、アルバム全体を流れる「テンポ」である。ゆったりと歩くかの如き、ノビノビとしたスイング感。春の煌めく木漏れ日の中、微風に吹かれて、ゆったりと歩くような心地よい爽快感。
その代表的な演奏が、1曲目の「Beverly」。この曲は、山中千尋のオリジナル。ゆったりとした、ソフトなスイング感。明るい南欧、地中海を思わせるような、日本で言えば、春の晴れ渡った瀬戸内海を思わせるような、そんな開放感と心地よさが聴く者を魅了する。
バックのリズムセクションもなかなかのもので、ベースのRay Parker は骨太なベースで、トリオの底辺を支え、ドラムのLaFrae Olivia Sci(なんて読めばよいのか)は、芯の入ったスティッキングと変化に富んだ柔軟なドラミングでトリオに彩りを添える。
このアルバムの演奏をCDショップで初めて聴いたとき、こんなに柔軟で芯がありながらも、こまやかでしなやかなドラミングを披露する輩はだれだ、と思って、ジャケット写真を見たら女性でした。至極納得。
この山中千尋トリオは、心地よいスイング感だけがウリではない。芯の入ったガッツある演奏もまた、このトリオの特徴なのだ。その良い例が、2曲目の「Girl From Ipanema」。いわゆる「イパネマの娘」だが、このボサノバの名曲が、芯の入ったダイナミックな演奏によって、硬派なジャズ・スタンダードに変身する。
山中千尋のタッチは、しっかりと鍵盤を押さえきっているところに良さがある。強い音も弱い音も大きい音も小さい音も、変わりなくしっかりと音を出しているので、耳障りじゃないのだ。
そのダイナミックさは、4曲目の「Living Without Friday」で最大限、発揮されている。そして、3曲目の「A Sand Ship」、これは知る人ぞ知る、中島みゆきの「砂の船」のジャズ化。素晴らしいアレンジに、嬉しい驚きは隠せない。
硬軟緩急自在、「いっちょ気張って、ちょっとまとめてみました! いかがっすかあ」って感じの、爽快で素敵なデビュー・アルバム。これから先のリリースが楽しみだ。
今の耳で聴いても、9年前の印象は変わらない。良いアルバムです。
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