The Return Of Art Pepper
僕がジャズを聴き始めた頃、1970年代から1980年代前半は、米国西海岸ジャズはマイナーな扱いだった。ジャズと言えば、米国東海岸がメジャー。西海岸ジャズの事を訊くと、硬派なジャズ者の先輩は眉をひそめたものだった。肩身の狭い思いをしながら、独学で聴き進めていたなあ。
『スイング・ジャーナル・プレゼンツ/ザ・ウエスト・コースト・ジャズ』がリリースされてからじゃないだろうか。米国西海岸ジャズが陽のあたる場所へ出るようになったのは。1991年11月のリリースだったかと記憶している。当然、しっかりと所有していますよ(^_^)v。
しかし、1970年代後半、僕がジャズを聴き始めた頃は、米国西海岸ジャズはマイナーな存在。僕が米国西海岸ジャズに興味を持ったのは、アルトのアート・ペッパーの存在。ひょんなことから、『Art Pepper Meets The Rhythm Section』を手に入れたことが切っ掛け。でも、このアルバム、どう聴いても、米国西海岸ジャズの特徴を宿していない。
数少ない米国西海岸ジャズを語った書籍を紐解きながら、米国西海岸ジャズは、お洒落にアレンジされた、聴き心地の良いジャズだということが判ってきて、それってどんな音なの、なんて想像しながら、それを確かめる術がなくてイライラしていた。
そこで、このブログに時々出てくる、大学時代の「秘密の喫茶店」のお世話になる。喫茶店のママさんに、米国西海岸ジャズのことを話したら、クスッと密かに笑って、いくつかのアルバムを聴かせてくれた。
おおっなるほど、お洒落にアレンジされた、聴き心地の良いジャズとはこのことか〜。心地良いユニゾン&ハーモニー。インプロビゼーションのキャッチャーな展開。とにかく良くコントロールされてはいるが、ジャズの躍動感はしっかりとキープされている。なんだなんだ、ジャズ者の先輩達が眉をひそめるほどのものではないではないか。というか、なかなかにクールである。
というのも、「秘密の喫茶店」のママさんが、それはそれは、米国西海岸ジャズの良いところを聴かせてくれたんですね。これは、それから10年位経って判りました(笑)。
そんな米国西海岸ジャズの良いところのアルバムの中で、一番印象に残ったアルバムが『The Return Of Art Pepper: The Complete Art Pepper Aladdin Recordings, Vol. 1』(写真左)。なんとも長いタイトルなので、以降、『The Return Of Art Pepper』と省略する。ちなみにパーソネルは、Jack Sheldon (tp) Art Pepper (as) Russ Freeman (p) Leroy Vinnegar (b) Shelly Manne (ds)。1956年8月、ハリウッドでの録音。
これがまあ、絵に描いた様な米国西海岸ジャズで、冒頭の「Pepper Returns 」を聴けば、たちどころに「これは米国西海岸ジャズだ」と判る位の特徴的な演奏が繰り広げられている。心地良いユニゾン&ハーモニー。インプロビゼーションのキャッチャーな展開に加えて、程良くアレンジされた「チェイス(追っかけるように同じフレーズを演奏すること)」。この「チェイス」が格好良い。米国西海岸ジャズの「粋」である。
しかも『The Return Of Art Pepper』というタイトルが格好いいじゃないですか。「アート・ペッパーの帰還」。でも、これって、後に判ったんですが、ペッパーって札付きのジャンキーで、あまりのジャンキーさに、遂にパクられて、麻薬療養刑務所に放り込まれて、やっとそこからシャバに出てきた。それを記念して『The Return Of Art Pepper』なんですね(笑)。
このアルバム、アート・ペッパーの硬派なアルトが堪能出来ます。けっして緩まない、実に真摯な演奏を展開している、アルト・サックスの天才、アート・ペッパーの真髄に振れることが出来る名盤だと思います。僕は、このアルバムを例の「秘密の喫茶店」で聴かせて貰って以来、大のお気に入りです。でも、当時は手に入れる術が無くて、ママさんにカセットにダビングさせて貰ったものをズッと聴いていました。このアルバムのCDを手に入れることが出来たのは、1990年代に入ってからでした。
ジャケットもシンプルで格好良い。ポートレイトとしてジャケットに鎮座まします、ペッパーの写真も中々に格好良い。ジャケット良し、タイトル良し。ジャケ買い、タイトル買いの一枚です。しかも、中身は正統派の米国西海岸ジャズ。加えて、ペッパーのアルトは、切れ味鋭く、しっかりと着実に、天才的なフレーズを紡ぎ上げている。これ、名盤だと思います。
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