歌伴上手は「一流」の証
ジャズの世界で「歌伴」は非常にテクニックが必要になる。「歌伴」なのだから、自分が目立ってはいけない。あくまで、メインのボーカリストを盛り立てて、盛り立てる中で、そこはかとなく、自らの存在をアピールする。そんな「人格」溢れる演奏テクニックが必要になる。
ここに『That's Him』(写真左)というアルバムがある。女性ボーカリスト、アビー・リンカーン(Abbey Lincoln)の代表作の一枚である。アビー・リンカーンはビリー・ホリデイを敬愛、しばしばビリーの後継者と評価される。確かに「似ている」。しかし、ビリーより、雄々しく、力強い。アビーは、女優としても活躍し、公民権運動の活動家としても知られている。惜しくも、昨年、2010年8月に鬼籍に入った。
ちなみに、この『That's Him』は、1957年10月の録音。パーソネルは、Kenny Dorham (tp) Sonny Rollins (ts) Wynton Kelly (p -1/6,8, b -7) Paul Chambers (b -1/6,8) Max Roach (ds) Abbey Lincoln (vo) 。トランペットのケニー・ドーハムとテナーのソニー・ロリンズが歌伴を務めている。この二人の「歌伴」が秀逸なのだ。
特に、テナーのロリンズの歌伴が素晴らしい。時にアビーに寄り添うように、時にアビーに相対し、時にアビーとユニゾンし、時にアビーを盛り立て、時にアビーに挑みかかる。それはそれは素晴らしい歌伴テナーである。
実は、ソニー・ロリンズが歌伴を務めるのは、この『That's Him』のみ。確かに、ソニーの歌伴は素晴らしいのだが、ソニーのテナーは歌心抜群。テナーで歌を唄うような感じで、これがまた素晴らしいのだ。優れたボーカリストの様なテナーの唄いっぷりは、そんじょそこらの普通のボーカリストはかき消されてしまう位の素晴らしさなのだ。
アビーくらい、雄々しく、力強いボーカルであれば、ロリンズの歌伴テナーに対抗し、バックに従えることができるのだろうが、普通のボーカリストでは、ちと荷が重い。僕がボーカリストだったら、ロリンズを歌伴に選ばないな。
ロリンズはしっかり「歌伴」してくれる素晴らしいテナーマンなんだが、彼の持つ溢れんばかりの歌心が曲者。知らず知らずのうちに、メインのボーカリストよりも、歌伴のロリンズのテナーに耳を傾けていたりするからだ。
実は、このアビーの『That's Him』でも、知らず知らずのうちに、ロリンズのテナーに耳を傾けている自分に気付いて、ちょっと気まずい思いになるのだ(笑)。
実は、トランペットのケニー・ドーハムもなかなかに素晴らしい歌伴ペットを聴かせてくれている。ケニーがこれだけ素晴らしい歌伴ペットを聴かせてくれるとは思っていなかった(ケニーごめん)。
実は、始めて、この『That's Him』を聴いた時、トランペットに心当たりが無くて、「誰やこれ?」と思ってしまった。それほどまでに、素晴らしい歌伴ペットなのだ(ごめんケニー)。
歌伴上手は「一流」の証。この『That's Him』でのロリンズは素晴らしい。他のボーカリストが声をかけなかった訳が良く判るし、ロリンズも受けなかったのも良く判る。ロリンズはテナーを通した「最高のボーカリスト」なのだから。
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