ケニー・ドーハムの好演盤です
絵に書いたようなハードバップを聴くと、やっぱりジャズの基本はハードバップだなあ、と感じる。このハードバップを起点に、様々なバリエーションのスタイルや奏法が考え出されて、今に至っている。ハードバップはジャズの王道。裾野も広く、アルバムも沢山あって、全く飽きることが無い。
Kenny Dorham『Jazz Contrasts』(写真左)。何気ないハードバップ盤なんだが、これが良い。ちなみにパーソネルは、Kenny Dorham (tp) Sonny Rollins (ts) Hank Jones (p) Oscar Pettiford (b) Max Roach (ds) Betty Glamann (harp) 。1957年5月の録音になる。
ケニーは損をしている。ジャズの入門本やジャズ盤の紹介本で、『静かなるケニー』ばかりが紹介されるので、中音域中心の、ちょっと緩やかで叙情的な、ミッドテンポなトランペットばかりがクローズアップされている。もともとハードバッパーなケニーなのに、なんだかムードミュージックを奏でるトランペッターみたいな扱いをされて、それはそれは気の毒である。
しかし、この『Jazz Contrasts』のケニーは素晴らしい。ハードバッパーの面目躍如である。このアルバムのケニーこそが本当のケニーだと僕は思う。
ケニーのトランペットは角が丸い。よって、確かに中音域中心のソロにその真価を発揮する。しかし、ロングトーンがちょっと苦手。音がスーッと伸びずに「ふらつく」ことしばしば(笑)。これがケニーにとって損なところ。速いパッセージはかなりのテクニックを見せる。でも、同じ世代に活躍していた、クリフォード・ブラウンやマイルス・デイヴィス、リー・モーガンなどに比べると、確かにテクニックは劣る。それでも、中音域中心のちょっと危なっかしいソロは、ジャズの世界においては「アリ」で、なかなかに魅力的だ。
この『Jazz Contrasts』では、そのケニーのトランペットが堪能出来る。このアルバムでは、ケニーはバリバリに吹きまくっている。冒頭の「Falling In Love With Love」では、ケニー独特の「中音域中心のちょっと危なっかしいソロ」が堪能できる。これが「ヘタウマ」でなかなか味のある展開になっている。
2曲目の「I'll Remember April」では、速いパッセージでの、なかなかのテクニックが聴ける。いや〜、上手い上手い。丸い音で速いパッセージを吹ききる。速いパッセージでは揺らぎが無い。スパッと吹ききる潔さ。ハードバッパーの証である。
サイドメンも好演。テナー・サックスにはソニー・ロリンズ。ベースにはオスカー・ペティフォード。ドラムにはマックス・ローチ。そして、ピアノにはいぶし銀ピアノ、ハンク・ジョーンズ。
この頃のロリンズは、サイドメンに回ったほうが伸び伸び吹いている。良い感じのロリンズ。さすが天才サックス奏者である。そして、ハンク・ジョーンズのピアノが優雅で渋くて、とても良い。このアルバムでのハンクのピアノは聴きものだ。そして、ドラムのマックス・ローチは相変わらずの優れたテクニックで叩きまくる。必ず、ロング・ソロがあるのが「ご愛嬌」。
3曲目「Larue」、4曲目「My Old Flame」、5曲目「But Beautiful」には、ベティ・グラマンのハープが加わる。なぜ、この完璧なまでのハードバップ・セッションにハープが加わるのか。記録によると、リーダーのケニー・ドーハムの発案らしいので、これはこれで「ご愛嬌」。
良いアルバムです。ケニー・ドーハムの入門盤としても最適です。絵に書いたようなハードバップを聴くと、やっぱりジャズの基本はハードバップだなあ、と感じる。ハードバップは奥が深い。そして、水準以上のアルバムは、どのアルバムを聴いても楽しい。
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