パウエル派の「ならではの個性」
ジャズ・ピアノのスタイルは旧来より、パウエル派・エバンス派の2派に大別されてきた。しかし、ジャズの歴史もハードバップ以降、約60年を経過し、既に、この分類も過去のものになっている。ハードバップ時代、パウエル派と呼ばれたピアニストもそれぞれ絶対的個性を確立、21世紀となった今、ジャズ・ピアノの系譜も新たな世代に入っている。
パウエル派という表現は、ハードバップ時代から継続して活躍する、大ベテランのジャズ・ピアニストに対してのみ、適用されるスタイルだろう。しかし、ハードバップ時代から既に約60年。以前、パウエル派と呼ばれた大ベテランのジャズ・ピアニストも、既にそれぞれの独特の個性を確立している。
バリー・ハリスも、ハードバップ時代は「パウエル派」。ハードバップ時代のバリー・ハリスは、バド・パウエルのスタイルを完璧に踏襲しつつ、パウエルの様に攻撃的では無く、ブルージーで優雅で優しいフレーズが唯一の特徴だった。
ここに『Barry Harris In Spain』(写真左)というアルバムがある。1991年のリリースになる。ハードバップ時代から既に約40年が経過。ここでの、バリー・ハリスは、既にバド・パウエルのスタイルから、完全に脱皮している。確かに、歌う右手と合いの手程度の左手、右手勝負というスタイルは、パウエル派の名残りを残してはいるが、パウエルほど極端ではない。
語る右手と効果的に合いの手を入れるような左手のバランスが実に巧み。歌う右手は、哀愁を帯びたマイナー調で、堅実なテクニックに裏打ちされた端正な響き。これはもう「バド・ハウエル」とは似ても似つかぬ個性。
冒頭1曲目の「Sweet Pea」を聴くだけで、これはもうバリー・ハリスならではの個性で、この個性が「バド・パウエル」の影響を強く受けているとは、全く持って思わない。バリー・ハリスの哀愁を帯びたマイナー調は、その響きに「黒さ」を醸し出す。そして、パウエル派としてならした時代に身につけたハイ・テクニックは、動く右手を「歌う右手」に昇華させる。
ちなみにパーソネルは、Barry Harris (p), Chuck Israels (b), Leroy Williams (ds)。イスラエルズとウイリアムスのリズム・セクションも素晴らしいバッキングを聴かせてくれる。優れたピアノ・トリオのアルバムは、ピアニストだけで成立するものではない。リズム&ビートをしっかりと担い、主役のピアノを盛り立てるベースとドラムの存在があってこそ、である。
良いピアノ・トリオのアルバムです。バリー・ハリスの「歌う右手」が堪能出来る優れたアルバムだと思います。バリー・ハリスの歌う右手は、哀愁を帯びたマイナー調で、堅実なテクニックに裏打ちされた端正な響き。
バリー・ハリスのピアノは個性が乏しくて判り難い、なんていう評もあるんですが「とんでもない」。このアルバムに収録された演奏はどれもが、バリー・ハリスというピアニストの個性を十分に堪能出来るものです。理屈はいらない。ジャズ者の皆さんに、是非、一度は聴いて頂きたいピアノ・トリオ盤です。
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