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2011年7月21日 (木曜日)

新しい響きのバップ・ピアノ

台風の影響で、かなり涼しい千葉県北西部地方。5月下旬の陽気。これだけ涼しいと純ジャズもOKである。

なでしこジャパンのW杯制覇に代表されるように、最近の日本人女子の活躍は見事である。ジャズの世界でも、このところ、ずっと女性中心である。出てくる若手有望株は、ほとんどが女子。ピアノ、サックス、フルート、トランペット・・・。一昔前は、女子ジャズ・ミュージシャンと言えば、ピアノがほとんどだったが、担当楽器も幅が出てきた。

最近、我がバーチャル音楽喫茶『松和』で良くかかる日本人女子のピアノ・トリオ盤がある。松本 茜の『Playing New York』(写真左)。2009年10月の録音。ちなみにパーソネルは、松本 茜 (p), Nat Reeves (b), Joe Farnsworth (ds)。

これがまあ、聴いて頂くと判るのだが、実にユニーク。冒頭の「Playing」のピアノを聴くと「あれっ」と思う。最近のジャズ・ピアニストの定番スタイルである、ビル・エバンス〜チック・コリア路線、若しくは、ビル・エバンス〜ミッシェル・ペトルチアーニ路線では全く無い、明らかな「バップ・ピアノ」なのだ。2曲目のバラード曲「Twilight」を聴くと、さらにその印象は強くなる。これ、絶対にバップ・ピアノだよな。

これだけあからさまな「バップ・ピアノ」は最近、なかなか聴けない。よって、これは誰が弾いているんだか、さっぱり判らない。テクニックも優秀。指の回りも良く、タッチもしっかりしている。ただ、黒人独特のタッチの粘りが無いので、このピアノは黒人のものでは無いことだけは辛うじて判る。
 

Playing_new_york
 
5曲目の「Relaxing At Camarillo」の選曲を見るだけで、これはもう口元が緩む。「Relaxing At Camarillo」と言えば、トミー・フラナガンの大名盤『オーバーシーズ』での演奏が真っ先に浮かぶ。これもバップ・ピアノ。ラストの「Sunset And The Mockingbird」のバラード演奏を聴いて、やっと、これは最近デビューした、若手ジャズ・ピアニストのものであると確信する。音の響きとアドリブのアプローチが「今様」。

この「バップ・ピアノ」を弾きこなす松本茜とはいかなる女子か。2008年5月、弱冠20歳で自身のトリオでアルバム・デビュー。当時、まだ現役の女子大生という正真正銘の新世代ジャズ・アーティスト。2010年春には大学も卒業。卒業前年の2009年の秋、ニューヨークに渡り、現地のベテラン・リズムセクションを従えて録音した作品が、2枚目のリーダー作『Playing New York』。
 
いろいろなインタビュー記事を読んでいると、小学生の時に、オスカー・ピーターソンを聴いてジャズ・ピアノに目覚め、様々なピアニストを聴き進め、そして、出会ったお気に入りのピアニストがフィニアス・ニューボーンJr.。う〜ん渋い。というか、珍しい。フィニアスかあ。エロール・ガーナーやアート・テイタムなどもお気に入りというから、最近の若手ピアニストとしては異色。

ただ、フィニアス・ニューボーンJr、エロール・ガーナー、アート・テイタムと言われて合点がいった。なるほど、フィニアス仕込みのバップ・ピアニストなスタイルだし、和音の響きはガーナー仕込み。良く回る右手は、確かにテイタム・ライク。それでも、彼らのコピーに留まらず、しっかりと彼女の個性を織り交ぜて、現在のジャズ・ピアノシーンの中で、独特の個性を確立している。

とにかく聴いていてとても楽しい。「新しい響きのバップ・ピアノ」とでも形容しようか。速いテンポのバップ・チューンは確かなテクニックと良く回る右手で「爽快感抜群」。しみじみとしたバラード曲はしっかりとしたタッチと女性らしい繊細な響きが「透明感抜群」。女性ならではの「ひ弱さ」は全く微塵も無い。僕は最初聴いた時は、男性ピアニストだとばっかり思っていた。

ラストのエリントンナンバー「Sunset And The Mockingbird」が絶品です。この曲での松本のピアノは、バップ・ピアノのマナーを漂わせながらも、クラシカルな独特な響きのタッチを織り交ぜて、なかなかに正統派ジャズ的な、個性溢れる演奏を聴かせてくれる。

うむむ、松本茜。彼女は「ただもの」では無い。既に、次のリーダー作が楽しみだ。

 

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Fight_3
 
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