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2011年7月22日 (金曜日)

マイルスの全てが名盤では無い

マイルス・デイヴィスは「ジャズの帝王」。しかし、マイルスのリーダー作だからと言って、全てが全てジャズ界を代表する名盤ばかりという訳では無い。特に、若かりし頃のマイルスのリーダー作については、マイルスも人の子、若さ故の、チャレンジ精神が先行しすぎた、意余って力足らずなアルバムも少なくない。

この『Miles Davis And Horns』(写真左)などは、その代表的存在。1951年1月と1953年2月のプレスティッジ・レーベルお馴染みに「セッション寄せ集め商法」。

ちなみにパーソネルは、1951年1月の録音は、Miles Davis (tp) Bennie Green (tb) Sonny Rollins (ts -1,2,4) John Lewis (p) Percy Heath (b) Roy Haynes (ds)。1953年2月の録音は、Miles Davis (tp) Sonny Truitt (tb -3) Al Cohn, Zoot Sims (ts) John Lewis (p) Leonard Gaskin (b) Kenny Clarke (ds)。

2つのセッションにおけるメンバーの共通点は無い。しかし演奏のコンセプトについては意外としっかりとしていて、基本的には「対西海岸ジャズ」である。当時の西海岸ジャズの「クールなアレンジ&アンサンブル」について、東海岸ジャズでも、もっとクールに出来るぞ、ってな意気込みが、このアルバムのアレンジと演奏に表れている。

基本的には、1949年録音の『Birth Of The Cool』のアレンジ&アンサンブルが根底にあるんだと思う。それでも、東海岸ジャズメン独特のアバウトさ、ラフさが災いして、西海岸ジャズに対抗できるだけの整然としたアンサンブルになっていないところがご愛嬌。

逆に、演奏の熱気、エネルギーは西海岸ジャズを凌駕するものがあり、西海岸ジャズと同じ土俵である「クールなアレンジ&アンサンブル」で東海岸ジャズが勝負するには無理がある、ということをこのアルバムは示唆してくれている様に僕は感じる。
 

Miles_davis_and_horns

 
そういう感想も、僕自身がマイルスのマニアであるからこそ持ち得るもので、普通のジャズ・ファンの方々であれば、この『Miles Davis And Horns』の内容については、全く好意的な評価をする気にはならないと思う。まず、このアルバムのトランペットがマイルスであることすら、思うことは無いのではないだろうか。それほど、このアルバムでのマイルスは個性が前に出ていない。

このアルバムを録音した時期は、マイルスは筋金入りの「ジャンキー」だった時代。アルバムを録音する気構えはあったんだろうが、輝かしいソロを吹ききるだけの気合いには欠けていたと思われる。無難には吹いてはいるが、それ以上の輝きは無い。他のメンバーの演奏も同様。無難に吹いてはいるが、無難に演奏はしているが、それ以上のものは残念ながら無い。

このアルバムは、マイルスのマニア向け。マイルスにはこんな時代もあったんだ、というマニアのコレクション的な目的の為のアルバムであると僕は思います。一般のジャズ者の方々には、決してお勧めすることは出来ません。ジャケット・デザインも意味不明なものですしね。閉口するという意味で「さすがはプレスティッジ・レーベル」orz。

マイルス者であれば、この時代のマイルスの「クールなアレンジ&アンサンブル」が体験できる貴重な盤ではありますが、それ以上でも無くそれ以下でも無い。マイルス者に取っても、手に取るタイミングとしては、他のアルバムに比べてプライオリティが低いアルバムだと思います。

マイルスのリーダー作だからと言って、全てが全てジャズ界を代表する名盤ばかりという訳では無い。でも、マイルスの成長過程を感じるには、避けて通れない盤ではあります。上級マイルス者向け。

 

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コメント

マスター様へ

はじめまして、こんばんは

私、マイルス初心者(ジャズも初心者)です。

遺作を聴いて
他の作品も
聴きたくなりました。


すごく沢山の作品がありますので迷っちゃいます。


ロック中心に聴いてましたので
記事を拝見してますと
すごく楽しいです〜〜。

Maeveさん、はじめまして。松和のマスターです。
 
コメントありがとうございます。当ブログをお楽しみいただけている
ようで、心強い限りです。励みになります。
 
当ブログでは、ジャズ者初心者の方々向けのアルバムについては、
その旨のコメントをつけていますので、参考にしていただければ幸いです。
 
それでは、これからも我がブログをよろしくお願いしたします。
 

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