ピアノ・トリオの代表的名盤・21
昨日、「パウエル派」という言葉が話題になったので、典型的なパウエル派のジャズ・ピアニストのトリオ盤が聴きたくなった。さて、と思っていたら、George Wallington(ジョージ・ウォーリントン)の『Knight Music』(写真左)が目にとまった。
ということで、今日はこのトリオ盤のお話しを。「ピアノ・トリオの代表的名盤」シリーズの第21回目。ちなみにパーソネルは、George Wallington (p), Teddy Kotick (b), Nick Stabulas (ds)。1956年9月の録音。
ジョージ・ウォーリントンは白人ながら、典型的なバップ・ピアニスト。1940年代から頭角を現し、1960年に家業を継ぐために引退。約20年間、ビ・バップからハード・バップ時代に活躍した。
このアルバムでも、バップ・ピアニストの個性全開である。そのスタイルは、明らかに「パウエル派」のものであり、明らかに「パウエル派」の特徴が手に取るように判る。しかし、バド・パウエルの音色とは明らかに異なる。弾き方はバド・パウエル、音色はジョージ・ウォーリントン。
これがジョージ・ウォーリントンの凄いところ。パウエル派であれば、まずはパウエルの真似、パウエルそっくりに弾きこなすところなんだが、ジョージ・ウォーリントンは既に自身の個性を確立していたことが凄い。
そのジョージ・ウォーリントンの個性とは、音がウォームなところ。暖かいんですね。パウエルは切れ込むような、叩き込むような激しいタッチ、一瞬一瞬が全て勝負の様な、そんな硬質なタッチが凄いんですが、ジョージ・ウォーリントンの音は「丸い」。きめ細やかで上品なタッチは、本家パウエルとは正反対。でも、速いフレーズの疾走感、切れ味はパウエルそのもの。この辺が面白い。
この丸くて、きめ細やかで、上品なタッチは、ピアノ・トリオでこそ堪能できる。そういう意味で、この『Knight Music』は、ジョージ・ウォーリントンの個性を十分に感じる事ができる優秀盤ということになる。
タイトルを直訳すると「騎士の音楽」。ジョージ・ウォーリントンの典雅なピアノ・タッチを聴いていると、中世騎士の気骨溢れる、優雅で優しい雰囲気が浮かび上がってきて、このアルバムのタイトル『Knight Music』について、なるほどと思ってしまいます。なかなか、ジャズでは珍しいネーミングですね。名は体を表すと言いますが、この盤については「けだし名言」。
演奏フォーマット的には「ビ・バップ」です。トリオを構成するメンバーが3者台頭に、そのテクニックを、その個性を披露するハードバップなスタイルではありません。リーダーであるピアノを前面に押し出して、バックでベースとドラムがそれを支えるという、ビ・バップ的な展開が主です。
しかし、それがかえって幸いして、ジョージ・ウォーリントンのピアノの個性を心ゆくまで楽しむことができるんですね。しかも、技が全てのビ・バップ的演奏とは違い、インプロビゼーションを聴かせる展開になっているところが、これまた、このトリオ盤の優れたところ。激しいだけが、硬派なだけが、パウエル派ではありません。
良いピアノ・トリオ盤です。なかなか入手しづらい盤ですが、iTunesなどでダウンロード出来るので、ピアノ・トリオのファンの方々には一度は聴いて頂きたい逸品だと思います。
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