マル・ウォルドロン 『Spring In Prague(プラハの春)』
今日はチェコ繋がりのジャズ盤紹介といきたい(笑)。チェコと言われて、真っ先の思い出すのが「プラハの春」。まだ、チェコがスロバキアと合併していたチェコスロバキアの時代、スターリン的抑圧に対する不満が爆発して、スロバキア人のドプチェク率いる政権が誕生し、自由化・民主化路線が布かれた。これを「プラハの春」と呼ぶ。
ところが、1969年、改革の行方に懸念を抱いたソ連を含むワルシャワ条約機構5カ国の軍が介入、「プラハの春」は潰された。国内の秘密警察網が整備強化されて国民同士の監視と秘密警察への密告が奨励され、旧東ドイツと並んで東欧で最悪の警察国家となった。
しかし、ゴルバチョフは1988年3月の新ベオグラード宣言の中でブレジネフ・ドクトリンの否定、東欧諸国へのソ連の内政不干渉を表明、1989年11月10日にベルリンの壁が破壊され、チェコスロバキアでも、1989年からの「ビロード革命」によって共産党体制は崩壊し、自由化を実現した。
そんな激動の1989年の翌年、ジャズ・ピアニストのマル・ウォルドロンは、その名もズバリ、Mal Waldron『Spring In Prague(邦題:プラハの春)』(写真左)というタイトルの企画盤を録音する。1990年2月のことである。録音場所は、西ドイツのミュンヘン。レーベルは「Alfa Jazz」。いかにも日本のレーベルらしい、「あからさまな」企画盤である。
だが、当時、ゴルバチョフのペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)から始まり、ベルリンの壁の破壊、そして、ソビエト連邦の崩壊、そして、このチェコスロバキアの「ビロード革命」には、元史学徒として、その動向に血湧き肉躍った記憶がある。当然、このマルの『プラハの春』には敏感に反応し、即購入した。
入手した当時は、そのあからさま過ぎるほどの「企画根性みえみえ」の内容が故、冒頭のショパンの「革命」のジャズ・アレンジでズッコケて、暫くお蔵入りになった。思い出したように、引き出しの中から引きずり出して、何度か聴く様になったのは、それから10年以上経ってからである。
今の耳で聴くと、冒頭のショパンの「革命」はさておき、2曲目以降のマルを中心とするピアノ・トリオのパフォーマンスはなかなかのもの。フリーでアブストラクトな演奏スタイルから、ハードバップの様なオーソドックスな演奏スタイルまで、幅広いマルの音楽性のショーケースの様なパフォーマンスはなかなか「イケる」。
ちなみにパーソネルは、Mal Waldron (p) Paulo Cardoso (b) John Betsch (ds)。ベースのパウロ・カルドソ、ドラムのジョン・ベッチェ、共にあまり名を聞かないリズム・セクションではあるが、この2人のパフォーマンスが実に良い。カルドソのベースはピッチがバッチリ合っていて、ブンブン胴なりする太いベース音は実に印象的。ベッチェのドラミングもタイトで柔軟で見事。この2人のリズム・セクションがバックにあって、ピアノのマルは、思う存分、様々なスタイルのジャズ・ピアノを披露する。
マル・ウォルドロンのタッチは硬質で端正。当初は、欧州系のジャズ・ピアニストだと思った(事実、マルは1965年に渡欧し、1966年にはイタリアに定住、晩年にはベルギーに移住している)。しかし、硬質なタッチの底に、もやっとした黒いブルージーな雰囲気が横たわっている。そして、端正な弾きこなしの端々にラフな指さばきが見え隠れする。この「黒い情感と適度なラフさ」がマルの特徴。
マルのピアノを愛でるには、ピアノ・トリオかピアノ・ソロだ。マルのピアノを満喫できる演奏フォーマットでないといけない。そんなマルの「黒い情感と適度なラフさ」を、この『プラハの春』では、ピアノ・トリオであるが故に堪能できる。
よくよく見れば、ジャケット・デザインもなかなかだし、あからさま過ぎるほどの「企画根性みえみえ」の内容には、未だに閉口するにはするんだが、マルを中心とするピアノ・トリオのパフォーマンスはなかなか「イケる」。今では、冒頭のショパンの「革命」を苦笑いしながら聴き流し、2曲目以降のピアノ・トリオの演奏を愛でることが多くなった。
あからさま過ぎるほどの「企画根性みえみえ」の企画盤ではあるが、マルのピアノを愛でるには、なかなか良好な盤ではある。
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